ペンギンたちのお日さま

ペンギンたちのお日さま                                                        あのや あきら
           1
 南きょく大りくには、たくさんのしゅるいのペンギンたちがすんでいます。冬にはマイナス30度にも、40度にもなるので、ほとんどのペンギンは、春にたまごを生みます。
 でも、そのいちばんさむい冬に、たまごを生み、あたためてヒナにかえすペンギンが一しゅるいだけいます。皇帝ペンギンです。
 おなかすかしのピモは、その皇帝ペンギンのおとこの子です。
 いまは春。といっても、まわりはこおりばかりで、すごいさむさです。
「パパ。ママ。おなかがすいたよ」
 大ごえでさけんでも、だれもきません。
「もうすこしのしんぼうよ」
 となりにいたピユがいいました。ピユはおんなの子です。
 皇帝ペンギンの子どもたちは、ほいくえんにあつまって、おやが海からエサをはこんでくるのを、まちつづけていました。
 海は、ピモたちのほいくえんから、なん百キロもはなれれています。
「いいなあ」
 おやからエサをもらっているおともだちを見て、ピモがそうつぶやくと、ピユが、
「はしたないことをいってはいけません」
と、しかりました。
 なん日かがたったとき、ピモのおかあさんが、エサをはこんできました。
 口うつしでエサをたっぷりもらったピモは、
「ねえ、ママ。ピユにもあげてよ」
と、たのみましたが、
「それはできません。きまりなのです」
というと、おかあさんはまた、エサをとりに、海にむかって、トコトコと歩きだしました。
「ピユ。だいじょうぶかい?」
 しんぱいになって、ピモがきくと、
「だいじょうぶ」
と、ピユはこたえました。
 ピユは、つよいおんなの子でした。




        2
 ある日、どこまでも広いこおりの平原に、ポツリと小さいものが見えました。
 れつをつくってエサをはこんでいるおやペンギンたち……ではないようです。
「アザラシかな?」
 ピモがこわくなっていいました。
 皇帝ペンギンが海からとおいところで子どもをそだてるのは、ヒョウアザ ラシやシャチなどから子どもをまもるためなのです。
「ピモったら、よわむしね。アザラシだったら、あたしがやっつけてあげるわ」
と、ピユはいいました。
 プー。よわむしといわれたピモが、ほっぺたをふくらませました。
 それは、にんげんでした。
 こおりの上をはしる車にのって、南きょくのきちへ、むかうところでした。
 子どもたちのほいくえんのすぐちかくを、なんだいもの車がはしっていきました。
 こおりのかたまりにのりあげて、一だいの車が、ガタンと大きくゆれました。そして、はこがひとつ下におち、赤くて、丸いものがあっちへコロコロ、こっちへコロコロ。
 にんげんは、車をとめ、その赤いものをひろいあつめると、いってしまいました。
 ピモたちは、赤いものがおちたところへ、いってみました。
「いまのは、なんだったのかな?」
 ピモが、くびをかしげたとき、
「きゃあ。こわい」
 ピユのさけびごえがしました。
 いってみると、ピユは、赤いもののまえにたって、ぶるぶるとふるえていました。
 赤いものは、リンゴでした。こおりのかたまりのかげにかくれていたので、一こだけ、ひろいわすれていったのです。
 でも、リンゴなんて、だれも見たことがないので、
「これは、なんなの?」
「お日さまの子どもじゃないのか」
 リンゴのまわりにあつまってきた子どもたちは、かってなことをいいだしました。
「そうだよ。お日さまの子どもだよ」
 ペンギンたちは、赤くて、丸いものといったら、お日さましか、しらないのです。
「いいにおいがするね」
「うん、いいにおいだね」
 においをかいでいるだけで、しあわせなきぶんになってきました。
 でも、だれもさわろうとしません。
 ピモは、ピユによわむしでないところをみせたくなりました。
「よし。ぼくがつっついてみる」
「やめなさいよ。あつくて、しんでしまうわよ」
 あわてて、ピユがとめました。
 そういわれても、ピモは、リンゴをつっつきました。ピユにゆうきのあるところを見せたくて……。
         3
 口のなかに、あまくて、さわやかなあじが、ひろがりました。
 サカナしかたべたことのなかったピモは、そのふしぎなあじに、しあわせいっぱいなきもちになりました。
 パタパタ、
 とはねをはばたかせました。
 トントン、
 と足をならしました。
 はねと足が、かってにうごいてしまうのです。
「ピモ、だいじょうぶ?」
 ようすがへんなので、ピユがしんぱいそうにききました。
「ああ、さいこう。こんなしあわせな気分、ぼく、はじめてだ」
 ピモがうたうようにいったとたん、リンゴのまわりにいた子どもたちは、いっせいに、リンゴをつっつきだしました。
 そして、みんな、パタパタ、トントン、とおどりだしたのです。
 ピユも、
「ああ。あたし、しあわせ」
と、パタパタ、トントンとおどっています。
 そばに、ピモはかけよりました。そして、
「ああ。ぼくも、しあわせ。ねえ、ピユ。ぼくのおよめさんになってくれないか」
と、いいました。
「ええ、いいわ。やくそくよ」
 ピユのへんじをきくと、ピモはもっとしあわせなきぶんになって、子どもたちのなかでいちばんパタパタ、トントンをやりました。
          4
 夏になると、皇帝ペンギンの子どもたちは、海へとむかいました。海につくと、およぎかたと、エサのとりかたをおぼえるのに、いそがしくなりました。
 おなかすかしのピモは、とくに、エサをとるのにいそがしくて、たまにピユとあっても、
「やあ。げんきかい」
と、こえをかけるくらいでした。

 冬がきて夏がきて、また、冬がきて夏がきて、秋になりました。
 皇帝ペンギンたちは、ながいれつをつくって海をはなれ、子そだてするところへと、歩きだしました。
 おなかすかしのピモも、たくましいおとなになりました。たくさんサカナをたべたので、ほかのペンギンよりもひとまわり大きくなっていました。
「そろそろ、ぼくも、けっこんしなくてはいけないな」
 ピモのあたまには、あるペンギンのすがたがうかんでいました。
 いうまでもなく、ピユです。
 子そだてするばしょには、なん万ばのペンギンたちがあつまっていました。
 ピモは、ピユをさがしまわりました。
 ピモがピユをみつけたとき、ピユはあるペンギンに、
「ぼくのおよめさんになってくれないかい」
と、いわれているところでした。
 ピユは、くびをふると、
「ごめんなさい。あたしのおむこさん、もう、きまっているの」
と、いっているのが、きこえました。
 ピモは、がっかりしました。
 しばらく見ないうちに、ピユは、とてもきれいなペンギンになっていたのです。
 おむこさんがきまっていても、あたりまえにおもえました。
 ガッカリして、さろうとしたとき、
「ピモ!」
と、ピユがピモをよびとめました。
「ピモ、どこへいくの?」
「おそかったみたいだね。およめさんになってもらおうとおもってきたんだけど、おむこさんはきまっているんだね。ピユ、大きなたまごをうむんだよ。げんきでね、さよなら」
「ピモ。おぼえてないの?」
「えっ?」
「まったく、わすれっぽいんだから。あの日よ。お日さまの子ども、たべた日のことよ」
 ピモはおもいだしました。
 ピユは、おさなかったときのやくそくを、ずっとおぼえていたのです。
         5
「だいじょうぶかい」
 ピモは、しんぱいになって、ピユにききました。
「あたしは、だいじょうぶ。それより、しっかり、うけとめてよ」
 ピユは、まっくらな中で、いま、たまごを生みおとすところです。
 なんきょくの冬は、一日じゅう、よるです。そして、そのさむさときたら、どんなものでも、あっというまに、こ おおらしてしまうほどです。
「生まれる!」
 ピユは、大きなたまごを生みおとしました。
 ピモはそれを足の上でうけとめると、すばやく、ふくろのようになったおなかで、つつみこみました。下のこおりにおとしたら、あっというまに、たまごはこおってしまいます。
「せいこうだよ。ピユ」
「よかったあ。じゃあ、あとは、おねがいね。あたし、おなかペコペコ。おしょくじにいってきます」
 それだけいうと、ピユは、くらいこおりの上を、トコトコ、トコトコ歩いていってしまいました。
 ピユの上には、夜の空が広がっていました。でも、その空には、ペンギンたちよりもたくさんの星がうめつくしていて、青や白や、ダイヤモンドや、オパールや、何千、何万の色で、かがやいていました。

 ピユがつめたいのではありません。たまごを生んでつかれきったおかあさんペンギンたちはみんな、いっせいに海にむかって、なん百キロも歩いていくのです。
 もどってくるまでの九しゅうかん、おとうさんたちは、くらやみの中で、ひたすらたまごをあたためつづけるのです。
「さむいなあ。おなかがすいたなあ」
 ピモは、空にでているオーロラを見ながら、足ぶみをしました。ゆらゆらゆれるオーロラみたいに、からだをゆらしました。
「よわきになってはだめだ。いくらおなかがすいても、いくらさむくても、がんばれ、ピモ。がんばるんだ」
 ピモは、じぶんをはげましつづけました。

 すうしゅうかんがたったある日、すごいあらしがおそってきました。かぜで、からだがふきとばされそうです。
 マイナス50度はこえるさむさです。
 たまごをだいたおとうさんたちが、あつまりだしました。
「さむいのは、あたりまえ。だっていまは、ふゆだもん。さあ、みんな、あつまって、あつまって!」
 おしくらまんじゅうをして、あたたかくなるためです。
 かぜのあたるところにいるおとうさんは、さむさにたえられなくなると、むれのなかにはいろうとします。
 ですから、むれは、ゆっくりしたスピードでまわってます。
 ピモは、たまごをあたためながら、ゆっくりと歩いているうちに、かぜのあたるところへ、でてしまいました。
「うー。さむい」
 かぜにとばされたゆきが、ピモのからだにぶつかります。
 となりにいたおとうさんペンギンが、あまりのさむさに、たおれました。その足から、大きなたまごがころがりでました。
「かわいそうに!」
 おとうさんもだめなら、たまごもだめです。あっというまに、こおってしまうからです。
 じぶんがたおれることをかんがえて、ゾーッとしました。
「がんばれ、がんばれ」
 そのうち、あたまがボーッとしてきて、ねむくなってきました。
「ねたらだめだ。ねむるな、ピモ」
 ピモは、ひっしでじぶんにいいきかせました。
 春になったらでてくるお日さまを、おもいうかべてみました。
 また、だれかがたおれました。
 もし、じぶんがたおれたら、ピユはどんなにかなしむことでしょう。
 それに、おなかのたまごは、お日さまも見ないで、しんでしまうのです。
 ピモは、なつのお日さまを、おもいうかべてみました。まっ赤で、まん丸いお日さまを。
 すると、どうでしょう。
 ピモの口のなかに、あまくて、さわやかなあじがひろがったのです。
 かってに、はねがパタパタ、足がトントンと、うごきだしたのです。
 あの日、お日さまの子どもをたべた日のことを、いきいきとおもいだしたのです。
 あの日の、とてもしあわせだったきもちを。
 そして、けっこんしようといったときに、うれしそうに、「いいわよ」といってくれたピユのことを。
「おーい、みんな、がんばるんだ。おーい、お日さまの子どものことを、おもいうかべろ」
 ピモは、大きなこえでさけびました。
 おしくらまんじゅうしているペンギンたちのなかで、なん羽かがパタパタ、トントンとやりだしました。
 そのリズムが楽しそうなので、ほかのペンギンたちも、そのリズムにあわせて、パタパタ、トントンとやりだしました。
「みんな、みんな、パタパタ、トントン。
春になれば、パタパタ、トントン。
お日さまをたべちゃおう。パタパタ、トントン。
こどもたちにも、お日さまをたべさせちゃおう。」
 でたらめの歌を歌いだしました。
 ことばにつまったとき、べつのペンギンが歌いだしました。
「みんなで、みんなで、パタパタ、トントン。
お空にとんで、お日さまをたべちゃおう。
パタパタ、トントン。パタパタ、トントン。
イカよりかんたんに、たべれるよ。
春になれば、いつもお日さまはおそらにいるんだから」
         6
 あらしがさって、すうしゅうかんあとのことです。
 ピモのたまごが、ゴソゴソとうごきだしました。ヒナがかえったのです。
 ピモは、かわいいヒナに、口うつしで、ペンギンミルクをあたえました。皇帝ペンギンは、さいしょのミルクをあたえるのは、おかあさんではなくて、おとうさんなのです。
 からだのなかにのこっていたさいごのえいようです。もう、フラフラです。
 それからすう日あと、ピユがかえってきました。
ピユは、ピモのすがたを見つけると、とびついてきました。
「よかった、だいじょうぶだったのね。あらし、たいへんだったでしょう」
  ピモは、おなかのつつみをあげると、
「さあ、ママにごあいさつをしなさい。」
と、たまごからかえったヒナペンギンをピユにみせました。
「あいたくて、あいたくて、いそいでかえってきたのよ」
「はじめまして。」
「さあ。おかあさんのところへいきなさい。」
 ピモとピユはおなかとおなかをくっつけました。
 ピモは、うまれたてのヒナを、ピユにわたそうとしました。
 このときも、気をつけなくてはいけません。
 こおりの上におとしたら、ヒナはあっというまに、こおってしまうからです。 
 それだけではありません。ヒナをしなせてしまったおかあさんが、ヒナをぬすもうとすることがあるからです。
 まわりをみまわして、
「ぼうや、いち、にーの、さん」
 ヒナは、ピユのところへいきました。
「ぼうや、さあ、お口をあけなさい。おしょくじですよ」
 ピユが口うつしで、ヒナにエサをあげだしたとき、ピモのおなかがグーッとなりました。
「ピユ。ぼくも、ぺこぺこ。すこしでいいから、くれないかなあ」
「それはできません」
 ピモはしょんぼり。
「しかたない。エサをとりにいくか」
 4か月も、なにも食べていなかったので、ピモのたいじゅうは、はんぶんにへってしまっていました。
 ピモは海にむかうため、トコトコと歩きだしました。
 そして、ふっと、だいじなことをいいわすれているのを、おもいだしました。
「もし、あらしがきたら、お日さまをおもいうかべるといいよ。それも、ぼくたちがたべたお日さまの子どものことをね。そうすると、足とはねが、かってにうごきだして、からだがポカポカしてくるよ。歌もうたうと、たのしいよ。」
 そういったとたんです。ピユが、
「あら、ほんとう」
と、いいました。
 お日さまのこどもときいただけで、ピユのはねとあしが、かってにうごきだしたのです。まるでおどっているみたいに。パタパタ、トントンと。
「わーい。ママ、もっと、もっと」
 ピユのあしの上では、ヒナがたのしそうにさけびました。
                                                                                                                     (おわり)

 あのやあきら氏は、この作品の出版化を望んでいます。できたら、皇帝ペンギンの写真入りの絵本にしたいと、望んでいます。出版してもいいという出版社や、ちょうどいい写真を所有しているという方がいましたら、連絡をください。

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by spanky2011th | 2011-07-06 14:12 | 童話 友人あのやあきら氏作