優等生なんかになりたくない

 優等生なんかになりたくない   

 ある日のこと。空飛ぶ円盤が宇宙のかなたから飛んできて、世界のあちこちにおりたった。それを見ていた者はどこにもいなかった。
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「それでは、学級委員には井上雅之くんと望月深雪さんにやってもらうことにします」
 司会がそうつげると、めずらしいことに教室に拍手がおきた。拍手は、望月深雪にむけられたものだ。
 ちょっと引っかかるものを感じながら、真亜子も、みんなといっしょに拍手をした。
 深雪が学級委員になるなんて、数か月前では考えられないことだった。地味で、おとなしくて、成績は下から数えた方が早いくらいの子だったのだ。ところが、ある日から、テストではいつも百点をとるようになり、授業中もすすんで手を上げるようになったのだ。
 深雪が、とつぜん、どこから見ても優等生になってしまったのだ。
 真亜子は、他人のことをねたんだり、そねんだりする性格ではない。だから、深雪が変わったことを、自分のことのようにうれしいと思う。
 でも、ただひとつ、気になることがあった。それは、深雪がいつもつまらなそうな顔をしていることだった。
 真亜子は拍手をしながら、チラリと、それまで学級委員だった辻由美子を見た。
 人を小バカにするクセのある由美子は、信じられないといった顔つきをして、下くちびるをかんでいた。

 深雪が学級委員になると、クラスのふんいきが変わっていった。どう変わっていったのかというと、いい方へ変わっていったのだ。
 はじめに、由美子が変わった。あの日から深雪を「フン」と無視しつづけていたのに、数日後、とつぜん、深雪と仲良しになり、その上、人を小バカにするクセがなくなった。 
 どうも優等生は伝染するらしい。
 優等生が2人あらわれると、あっという間に、宿題をわすれる子もいなくなり、友達にいじ悪する子もいなくなり、休み時間には、つぎの授業のじゅんびをして静かに待っているようになったのだ。
 こんなふうに、クラス全体が優等生になっていく。それと同時に、みんながつまらなそうな顔になっていく。
 真亜子には、なにがどうなってしまったのか、ちっともわからなかった。




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『優等生になろう塾』のウワサを耳にしたのは、塾でだった。教えてくれたのは、塾で仲良しになったカヨだ。
「マアちゃん、知ってる? となり駅に、どんな子でも、たちまち優等生にしてしまう塾があるんだって」
 真亜子はその話をきいていて、深雪を思いうかべた。もしかしたら、彼女も……。
「もう、ママが申しこんじゃったの。マアちゃんもいっしょにいかない?」
 真亜子が、カヨの顔を見て、
「私、この塾が気に入ってるの。ねえ、そんなとこ通わないで、ここにいようよ」
というと、カヨは困った顔をした。
「こらっ! むだ話するんじゃない!」
 とつぜん、どなられた。頭に白髪のまじっている小林先生が、こわい顔でにらんでいる。 真亜子がこの塾に通っているのは、小林先生と遠い親せきにあたるからだ。でも、それだけではない。この塾の教え方が、気にいっているからでもある。ここの先生たちは、成績のことはあまり気にしない。そのかわり、解き方をおぼえこんでスラスラ答えを出したりすると、
「ちっとも考えていないじゃないか!」
と、顔を真っ赤にして怒るのだ。
         3
 カヨが塾にこなくなってから、数日後。
「ずいぶん、生徒がへったな」
 小林先生が塾の教室に入るなり、グチをこぼした。塾の生徒はみるみるへってしまい、20人クラスが7人になってしまっていた。
「先生、みんな、『優等生になろう塾』へいってしまったのです」
と、真亜子はいってみた。
「なんだい、それ?」
 小林先生は知らなかったみたいだ。
 真亜子が知っていることを話しだすと、ほかの生徒もかってにしゃべりだした。
「トシくんも、カヨちゃんも、みんな、あそこにいったみたいです」
「この前、カヨちゃんと会ったんだけど、ずいぶん顔色がわるかったよ」
 みんな、『優等生になろう塾』のことが気になっていたのだ。
 小林先生もその塾のことは気になったみたいだったが、
「そんなことより、勉強だ」
と、知らん顔をして、授業を始めた。
          4
 塾が終わると、真亜子は、電車にのって、となり駅へいってみた。
 その塾は、『優等生になろう』という大きな看板をだした大きなビルだった。
 ちょうど、塾が終わったところらしく、何百人という生徒が、一、二、一、二と軍隊の行進みたいな歩き方で、出入り口から出てきていた。深雪と由美子のすがたもあった。
 すがたを見られては大変だと、あわてて、真亜子は電話ボックスのかげにかくれた。
「いったい、あの中で、なにがおこなわれているのかしら」
 塾の生徒がいき過ぎてしまうと、ものかげから出て、ビルに目をやった。
 ビルの窓は、どこも黒い紙がはりつけられていて、外から中はうかがえない。
 自分の手にはおえそうにない。これは、仲間を集めた方がよさそうね。そう思ったとき、トン、トンと肩をたたかれた。
 ふりむくと、ブヨブヨ太った見知らぬ男の人が立っていて、
「ちょっと、こい!」
と、真亜子の手を引っぱった。
「いやだあ」
 真亜子は大声でさけぼうとしたが、肉のつまったフランクフルトみたいな手で、口をふさがれてしまった。
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『優等生になろう塾』へつれこまれた真亜子は、機械だらけのイスにしばりつけられた。ブヨブヨ男が三人、真亜子をかこんでいる。
「なんで、こんなこと、するのよ」
 真亜子はかみつくような感じでさけんだ。
「お前は、この星の人間ではないな!」
 真亜子は、ドキリとした。そのことは、仲間だけのひみつだからだ。
「私は、この星で生まれたのよ。だから、この星の人間です」
 真亜子のことばに、男たちはニヤリとわらう。
「おれたちの星の人間が、近々、この星へ引っこしてくる予定だ」
「だったら、私たちの先祖みたいに、こっそりやってきて、とけこめばいいじゃないの」
と、真亜子は抗議した。真亜子の先祖は数百年前、この星へ引っこしてきたのだ。
「とけこむつもりはない。いい暮らしをするために、奴隷が必要なのだ。だから、おれたちは、地球人の考える力をうばっておいてから、ここへ引っこしてくるつもりなのだ。さあ、お前も、教えられたことを疑わない優等生になって、おれたちの奴隷になるのだ」
 男のひとりが、真亜子の首筋にピンセットをあてようとした。
「いやだあ。奴隷なんかになりたくないよ」
 ピンセットの先には銀色の小さな粒がある。それをうめ込まれたら、きっと、さっきの生徒たちと同じように、つまらなそうな顔をして、ただ、教科書を覚えるだけの人間になってしまうのだろう。
 もがきながら、真亜子は目をつぶった。
 そのときだ。
「やめろ!」
 どなり声がして、だれかが飛びこんできた。
 小林先生と、同僚の先生たちだ。彼らも、真亜子と同じ、引っこし組みだ。
 乱闘がはじまった。が、あっさりと勝負がついてしまった。新しい宇宙人は、ケンカには弱いらしい。
 コテンパンにやられた男たちは、ナマコのようなすがたに変わり、床にたおれている。
「やい、きさまら、何を企んでる。白状しろ」
 小林先生は、くつでふみつけるふりをした。
「いいます。だから、命だけはおたすけください」
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 よく朝、真亜子は、校門のかげにかくれていた。小林先生たちも、手分けして、『優等生になろう塾』の生徒めいぼを見ながら、同じことをしているはずだ。
 来た。来た。
「ねえ、由美ちゃん」
 つまらなそうな顔で登校してきた由美子を、真亜子はよびとめた。
「優等生になって、どうするつもりなの?」
 真亜子が近づきながら、話しかけると、
「いい大学に入って、いい会社に入るの。そして、人よりいい暮らしをするのよ」
 後ずさりしながら、由美子がつまらなそうに答える。
 真亜子は、
「ふーん。でも、そんな人生、ちっとも面白くないでしょ」
と、いったかと思うと、由美子に飛びかかった。そして、由美子を押したおすと、いそいで、首すじにうめ込まれている銀色の粒をつまみだした。
「いたい! なにすんのよ」
 由美子がどなった。
「ごめん。ごめん」
 真亜子は、たおれている由美子を引き起こすと、宇宙人の悪だくみを説明した。もちろん、自分たちのことはひみつにして。
「バカみたい。『優等生になろう塾』なんて、私、知らないわよ。それに、宇宙人が地球に来ているわけがないでしょ」
 由美子は、いままでのことを少しもおぼえていないみたいだ。
 らんぼうしたこと、学級会で問題にしてもらいますからね。フン」
 小バカにした感じでそういうと、由美子はプリプリ怒りながらいってしまった。
 ああ。真亜子はため息をついた。でも、あの銀色の粒をつけたままより、人を小バカにする由美子のほうが、ずっとすてきだ。
「あとは、深雪ちゃんだな」
 真亜子はそうつぶやくと、また、校門のかげにかくれて、深雪がやってくるのを待ち伏せすることにした。
 となり駅のナマコ宇宙人はやっつけたが、まだ、あちこちに『優等生になろう塾』はあるはずだ。それを思うと、真亜子はちょっと、暗い気持ちになった。でも、なんとしてでも、あの宇宙人の野望から、この地球を守らなくてはいけないのだ。      
                        (おわり)

       学研「読み物特集」掲載


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by spanky2011th | 2011-07-18 21:27 | 童話 私の短編