「へんなペット」  

「へんなペット」  

   
「これなんか、どう?」
 小学生六年生の俊介がグリーンイグアナを指さして、友達の光一にそういうと、光一は首をふった。
「ありきたりだよ。もっと珍しい生き物、ペットにしたいんだ」
 二人がいるのは、毒グモ、ワニ、コウモリ、陸ガメ……と珍しい生き物ばかりを扱っている店。お年玉でもらった一万円でペットを買いたいと光一がいうので、おもしろそうだと思った俊介はつき合うことにしたのだ。
「じゃあ、こっちへ来なさい」
 いつ来たのか、不機嫌そうにレジのところにいた店主がそばに立っていて、声をかけてきた。
 二人が連れていかれたのは、レジの奥にある小さな部屋で、十いくつものガラスケースや鉄のおりが置いてあった。ほとんどが、からっぽだった。
「予算はいくらかな」
「一万円です」
「そうか。だったら、こぶだな。きのう入荷したばかりの、活きのいいのがあるよ」
「子豚?」
「ちがう。コブ。あのコブとりじいさんのコブだ」
「うそ!」
「うそじゃない。あのコブは、パラサイト、つまり寄生するコブなのだ。そうでなかったら、とったり、くっつけたりできるわけがないだろ。そのコブは野生のコブを新種改良したもので、人体には影響はないのだ。」
 店主が、二人をコブのところへ案内した。
「コブだ」
 四角い囲いの中に、子豚がいた。
「子豚じゃないの」
 俊介は、からかわれているような気がした。
「ブタについているのがコブだ」
 たしかにブタのからだには、一センチほどのピンク色のコブがいくつもついていた。
 でもそれはコブというよりイボだった。イボイノシシというのがいるのだから、イボブタがいてもいいのではないか。やはり、からかわれている気がした。
「信じてないな。よし」
 店主は手をおりにつっこんで、ブタの首すじについていたイボをつまみとった。そして、光一のあごの下に、くっつけたのだ。
 光一はおどろきの表情をし、それから、うれしそうにほほえむと、
「これ。すごいや。買う、買う」
と、お金を出した。
 あんな奇妙なものを買う光一の気持ちが、俊介にはわからなかった。

 忘れたころに天災はやってくるというが、それから数年後、高校一年生になったばかりの光一に、とんでもない災難が降り注いだ。
 はじめは風邪だった。ところが、それをこじらせて肺炎になり、ギックリ腰になり、ころんで足を骨折し……、と病気とケガのオールスターそろい踏みになってしまったのだ。このままだと、留年は確実。
 「留年だけはしたくない」
 と先生に粘りに粘って頼み込んで、
「学年末テストで赤点を取らなければ、進級させてやる」
 との先生の約束を取り付けた。出席日数の足りないのはなんとかする、と。
 それから光一は死に物ぐるいで勉強した。ほとんどの教科の日数が足りなく、その上、まったくのお手あげ状態だったので、赤点の30点をクリアするのも容易ではなさそうだ。
 そして試験当日。登校途中の道でばったりと光一と出会った。
「やあ。どうした。さえない顔して」
 中学の卒業以来だった。わけを光一に話すと、
「そうか」
とつぶやいてから、少し考え込んで、
「しかたない。コブ、貸してやろうか」
といった。
「コブ?」
 俊介は、光一のあごの下にくっついているコブに目をやって、小学生の時の記憶をよみがえってきた。そこにあるのが当たり前になっていたので、二人で買ったことも忘れていた。
「友達だから、特別にだぞ。他の人にはいうなよ」
 そういうと、光一はあごの下のコブを取ると、俊介のあごの下にくっつけた。
「みっともないよ」
 俊介が文句を言うと、光一は口を動かさずに、
「そんなこというと、コブが気を悪くする。とにかく、がんばれよ。」
と、言ってきた。
 あれっ、と思った。
「そういうことだよ。コブをつけていると、相手の考えていることがわかるんだ。」
 口を動かさずに光一がそう答えると、いま来た道を引き返そうとする。
「学校へ行かないのか」
というと、
「コブのない姿で、学校いけるわけないだろう。きょうは、休み、休み」
 コブを通して、返事が返ってきた。
 教室には半分以上の生徒が来ていた。でも、俊介ほど追い込まれていないので、みんな、意外とあっけらかんとしている。
「おい。どうした。今度はムチウチか」
  首に巻かれた包帯を見ると、何人かが、からかいにきた。
 俊介はコンビニで包帯を買って、コブをかくして登校したのだ。
「ばかだなあ」
と、口に出すものもいる。
 コブを通して聞こえてくる声も、似たり寄ったり。
 でもひとつだけ、
「俊介君、かわいそう」
という同情の声が聞こえた。女の子の声だった。
 俊介は、その声の主を探そうと目で探したが、見つからなかった。
 いまでは、俊介の包帯姿にはみんながみんな見慣れているので、だれもなんとも思わない。
 テストは、意外によくできた。というよりも、耳を澄ましていると、秀才とかガリ勉とかよばれている生徒の声が聞こえてくるのだ。 一日目のテストが終り、ホームルームのとき、また、
「俊介君、できたかなあ」
という声が聞こえてきた。
 コブをつけているというのは、意外と大変なもので、なにが大変かというと、やたらうるさいのだ。
 でも、半日もつけているうちに、コツを覚えてきた。
 俊介は、
「できたよ」
と、声に出さずに答えると、女の子が、
「えっ!」
とおどろきの声を出した。
「おい。早川、どうした」
 教壇で話していた先生が、早川という女の子をしかった。
 顔に紫のアザのある目立たない、口数の少ない子だった。長い髪で、いつもうつむいて、本ばかり読んでいて、顔をまともに見たことがない。
「早川さん。おどろかして、ごめんね」
「ううん。俊介君、聞こえるの?」
「ああ。聞こえる。君、もしかしたら、コブ、飼っているの?」
「コブ?」
「そう。コブ」
「なに、それ?」
「コブとりじいさんのコブだよ」
「ううん」
「じゃあ、超能力者?」
「ううん」
「じゃあ、なんなの?」
「いわないでね。ちょっと、こっち見てくれる。あたしの飼っているのはね……」
 俊介は、さりげなく振り返ると、声の主の早川を見た。
 両手でほほづえをついていた早川は、さっと左手をほほからはなすと、
「あたしのペットはアザ」
という声とともに、アザのない素顔がでてきた。そして、すばやく手をもとに戻した。
 あっ、かわいいと俊介は思った。
 見る見るうちに、ほほづえをついた早川の顔が赤くなっていった。
                                                                   (おわり)

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by spanky2011th | 2011-08-02 11:30 | 童話 私の短編