ふかひれスープの冒険(5)

「ふかひれなんかに、食べられてなるものですか」
 藤壺さんは死にものぐるいになって、ほうちょうをサメの鼻つっらにつきだしていました。でも、相手は、ほうちょうなんて、ちっともこわくないらしく、大口をパクパクさせていました。
 それもむりはありません。なぜなら、ほうちょうみたいな歯を、口の中に、いっぱいならべているのですから。
「こら! あっちへいきなさい」
 藤壺さんは、どなりました。
 そのときです。
「ワン、ワン」
と、ほえながら、茶色いものがサメめがけて、すっとんでいきました。藤壺さんの愛犬ボランです。
 ボランは、見開いたぶきみなサメの目に、前足で、きょうれつなパンチをくらわすと、サッと身をひるがえし、藤壺さんのよこに立ち、
「ウー」
とうなりました。
 サメの食欲を自分にむけて、藤壺さんを助けようとしているみたいです。
 ボランのうなり声に反応して、藤壺さんをねらっていたサメが、ボランのほうに顔をむけました。
 ボランは、少しずつ、藤壺さんからはなれていきました。サメも、骨っぽい藤壺さんより、ボランの方がおいしいと思ったらしく、ボランの方に向きました。
 そのとき、こんどは、空気を切りさくような音とともに、なにかがヒューととんでいって、サメの目につきささりました。
 サメが横をむいたので、大工の茂津さんが、その目めがけて、キリを投げたのです。
 ことのなりゆきを見ていた田西さんは、
「藤壺さん。はやくにげください!」
 大声で、さけびました。
 田西さんの声に、藤壺さんはあわててとび起きようとしました。でも、サリーのすそをふんずけて、また、ゴロンところがってしまいました。
「藤壺さん、こっちです」
 だいぶ、あわてているみたいで、もがけばもがくほど、藤壺さんは、自分のサリーにからまっていくみたいです。
 田西さんの目に、チラッとなにかがうつりました。船を停泊せさるためのいかりです。
 田西さんは、イチかバチかで立ち上がりました。そして、
「よっこらしょ」
と、いかりを持ち上げると、反動をつけ、今度は、ほら穴のようなサメの口めがけて、
「どっこらしょ」
を投げこみました。
 ガリガリ、ガリガリ。
 サメは、なにか、えさが口にはいったものと思ったらしく、のみこもうとしました。
 いくらサメでも、鉄のいかりはかみくだくことも、のみこむこともできません。
 のみこめないなら、はき出そうと、口をアグアグと開いたり閉じたりしはじめました。でも、からだを船の上にのりだしているため、いかりはどんどん、サメののどの奥へ落ちていきます。
 田西さんは、サメがいかりと悪戦苦闘しているすきに、藤壺さんのそばにはっていき、藤壺さんのサリーをつかむと、ひっぱりました。
 船が大きくゆれました。
「うわあ!」
 田西さんは、ふり落とされまいとして、デッキによつんばいになりました。
 サメはあばれまわり、デッキから、海の中に消えていったのです。

 ガラガラ。
 いかり用のチェーンがすごいいきおいで出ていってます。
「船長、藤壺さん、だいじょうぶっスか」
 茂津さんがやってきて、藤壺さんをたすけ起こしました。
「藤壺さん。だいじょうぶですか」
 田西さんは、そういいながら、からんでいたサリーをほどいてやり、
「藤壺さん。こまりますよ。船長命令にはしたがってください」
と、きつくしかりました。
「もうしわけありませんでした。ふかひれスープのことで頭がいっぱいだったもので……」 
 藤壺さんがモシャモシャと頭をかいて、田西さんにあやまりました。
 ところが、いわなければいいのに、ガラガラ出ていくいかりに気がつくと、茂津さんが、
「安光さん、さかながにげてるっス」
といったものだから、安光さんも、つい、いつものくせで、
「そりゃあ、てえへんだ」
 すっとんできて、ウインチ(いかりのチェーンをまく機械)にすがりつきました。
「あぶなく、しかけをとられるところだった」
と、ボソボソつぶやき、チェーンを止めるレバーをひきました。
 ガクン。ミシミシ。
 船が大きくゆれ、きしむ音がしました。
 そのゆれで、起きあがろうとしていた藤壺さんが、また、ゴロンと転がってしまいました。
 安光さんは、
「あっ、いげねえ。こいつは、つりじゃなかった」
というなり、あわてて船室にもどってしまいました。
 田西さんは、海を見ました。
 海の中ににげこんだはずのサメが、二十メートルほど先に浮かんでいて、片目でコンチキ2号をじいっと、にらんでいました。
 真ん丸の目の片方には、茂津さんが投げたキリがつきささっていて、もう片方の目は、どんよりとした黒目で、なにを考えているのか、まったくわからない目でした。
 へびににらまれたカエルといいますが、それよりもこわいのが、サメににらまれることでしょう。
 サメが、大きく空にジャンプしだしました。いかりのチェーンをぶっち切ろうというのです。でも、鉄のチェーンは、切れません。
 こんどは、沖にむかって、力まかせに、船をひっぱりだしました。

 田西さんは、負けてなるものかと、岸に船首をむけると、エンジンを目いっぱいふかしました。
 岸に少し近づいたかと思うと、今度は、ひきもどされます。
 これでは、いつまでも勝負のつかないつなひきです。
 田西さんは、あわてて、
「全員、船室に集まれ」
と、船長命令をだしました。
 田西さんの命令に、今度は、藤壺さんもそむきませんでした。
                 (つづく)





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by spanky2011th | 2011-08-21 11:45 | 長編童話 ふかひれスープの冒険