ふかひれスープの冒険(13 最終回)

   13
 茂津さんが中心になって、船のあちこちをしらべました。
 藤壺さんだけは、料理をつくるため、船室に残っていますが、あとは、みんな、ロープで折れた柱をしばったり、くいちぎられたところに物をつめこんだりと、大いそがしです。
 でも、あちこちが食いちぎられていましたが、沈没する恐れがないことがわかったので、一安心でした。
「そろそろ、かえるとしますか」
 田西さんは、パイプを口にくわえると、火をつけなおして、
「おもかじいっぱい」
と、かじを右にまわしました。
 タタタッ、ガタッ、タタタッ、ガタッ。
 イタチザメが体当たりをくらわせたため、スクリューの軸が少し曲がってしまったみたいです。いつもの心地好い音はしません。
 このスピードだと、港に帰れるのは、真夜中になりそうです。
 太陽が、西にかたむきかけています。
 バタバタバタ。バタバタバタ。
 とおくからヘリコプターのさわがしい音がしました。そして、拡声器で、
「そこの船、とまりなさい」
と、よびかけられました。
「いったい、どういうわけだろう」
と思いながら、田西さんはエンジンをとめました。
 ふかひれをとったことが、法律にふれるのでしょうか。でも、正確には、ふかひれは取ったというよりも、拾い上げたのです。思いあたることがありません。
 コンチキ2号のま上にヘリコプターがやってきました。
 ヘリコプターは海上保安庁のものでした。そして、スルスルとなわばしごがのびてきて、デッキに制服姿の人がおりてきました。
 その人は、なわばしごにぶらさがりながら、なにか、大声でどなっているようですが、ヘリコプターの音にかき消されて、なにをいっているのか、よくわかりません。
 デッキにおりたつと、その人は、
「こらっ、けしからんではないか! 本官だけ、おいていくとは、なんということだ」
と、どなりました。
 幼なじみで、クルージング仲間の桑形さんでした。これで、コンチキ2号の乗りくみ員がぜんいんそろったわけです。
 桑形さんは口ではおこっていますが、コンチキ2号のメンバーに会えて、うれしそうです。
 警察の仕事をおえて、知り合いの海上保安庁の人にたのんで、見回りのヘリコプターに乗せてもらってきたのです。
 ヘリコプターがいってしまうと、
「おい。ところで、そろそろ夕めしの時間だろう。今夜のおかずはなんだ」
と、桑形さんがたずねたので、デッキにいた人たちは口をそろえ、
「ふかひれスープ!」
と、こたえました。
「それはすごい!」
 くいしんぼうの桑形さんがあわてて船室に入っていったので、ほかの人たちも、あわてて、船室にかけこんでいきました。のこらず飲まれてしまってはたいへんだからです。
「おい。こら。まだか」
「藤壺さん。おなかがすいたよー」
「ペコペコで死にそうっスよ」
「胃袋が栄養を補給したがっています」
「てやんでえ、さっさと、くわせろ」
「ワン、ワン」
 みんなは、たいへんな思いをして手にいれたふかひれが、藤壺さんのみごとな料理のうでで、みごとなスープに変身しているものとおもっていました。しぜんに、かおがほころんでしまいます。
 ところが、皮のはがされたふかひれは、船室の小さな流しで、金のボールで水につけてあるだけでした。
「みなさん、どうしたのですか?」
 みんながどやどやとやってきたので、藤壺さんはふりかえって、聞きました。
「こら、夕めしはまだできないのか」
 桑形さんが、おこった口調でいいました。
 すると、藤壺さんはおどろいたような声で、
「だって、きょうは、夕飯はみんな、家でたべることになっているのではないですか。わたしも、床伏さんちのスープを食べるつもりでいるのですよ」
と、答えたものだから、たいへんです。
「なにいってんだ。港には、とうぶん着かないぞ」
「はらぺこなんだ。なんか、くわせろよ」
 みんながいっせいにしゃべりだしたから、なにをいっているのかわからなくなって、藤壺さんは耳をふさいで、すわりこんでしまいました。
「みんな、だまれ!」
 茂津さんがとってもでっかい声でどなったので、みんな、シーンとしました。
「ふかひれスープはまだできないっスか」
 茂津さんが、みんなを代表してたずねました。
「ええ。いま、つくっているところですが、まだ、とうぶんはできないですね」
「おい、とうぶんって、どのくらいだ。三分後か、それとも十分後か」
 こんどは、桑形さんがききました。
「そうですねー、いま、ふかひれの血ぬきをしているところで、それがすんだら、太陽の日にたっぷりあてなくてはいけませんから、そうですね、早くて、あと、三、四か月くらいですかね」
 藤壺さんの返事をきいたみんなの顔から、ほほえみが消えました。
「うへっ。そんなの、ちっとも早くないじゃんか」
 安光さんは、藤壺さんの気の長さにあきれていいました。
「そうだっ! 非常食があったろ」
 桑形さんがどなりました。
「それがないのです……」
 矢古さんが申しわけなさそうに、答えました。
「なにっ! おれはゆうめしに間に合うように、すっとんできたんだぞ。どうしてくれるんだ」
 桑形さんがプリプリおこっています。
「ということは、この船にはふかひれがあるだけなのか!」
 みんなに取り囲まれた藤壺さんは、
「だめです。できるまで、待ってください」
と、小さな流しの前に立ちました。ふかひれを守ろうというのです。
「そんなに待てないよー。はらぺこで、死にそうだ」
と、いったのはひろしです。
「ふかひれには、毒はないから、さしみにして食べたらどうですか」
 矢古さんも、すぐたべるのに賛成です。
 みんなが藤壺さんににじりよったので、
「だめです。そんなの、いけません」
 藤壺さんは、流しのふかひれの上に、身をのせました。
「ええい。やっちゃえ」
 ふかひれを守ろうとしている藤壺さんに、みんなはいっせいにとびかかりました。
「だめです。まだ、たべられません」
「うるさい。よこせ」
「ワン、ワワン」
「はらぺこで、いらいらしてるっスよ」
「てやんでえ、どきやがれ」
「パパの分も、とっといてよ」
 サメよりも、コンチキ2号の乗り組み員の方が、きょうぼうかも知れません。
                                             (おわり)



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by spanky2011th | 2011-10-23 12:25 | 長編童話 ふかひれスープの冒険