カテゴリ:童話 私の短編( 6 )

コンピューターが笑う日

コンピューターが笑う日〜それはデマからはじまった〜
             
         1
「明。きのうのあれ、見たか?」
 明が教室にはいると、浩司がすっとんでやってきた。
「ああ。見た、見た。こわかったなあ」
 明も、すぐに答える。だれかに、話したくて、たまらなかったのだ。
 「きのうのあれ」というのは、きのう放送された『宇宙人が地球征服をたくらんでいる』というテレビばんぐみだ。
 宇宙人は、コッソリと地球人のなかにひそんでいて、すこしずつ地球を征服しているというのだ。
 それによると、アメリカの政府は宇宙人と手をむすび、とんでもない兵器を作っているのだそうだ。そして、世界の大会社のトップも、世界の政治のトップも、半分ちかくがすでに宇宙人なのだという。でも、宇宙人はマスコミに“宇宙人などいない”という記事を書かせているので、ふつうの人はそれを知らない……というのだ。
 とくに明がショックをうけたのは、宇宙人は、つぎつぎとあたらしい娯楽を人間たちにあたえ、人間たちの考える力をうばおうとしているということだ。
 明と浩司があれこれ話していると、信也と博も、話に加わってきた。この四人は、いつもいっしょの仲良し組だ。
「やっぱり、宇宙人がひそんでいるというの、ウソだよなあ」
「でも、コバ先生なんか、宇宙人っぽいぞ」 
 話は大いにもりあがった。
 でも、だれも、ほんとうに宇宙人がいるとは信じていない。テレビゲームやアニメの世界とは、ちがうのだ。
         2
 テレビ放送があってから一週間ご、明はビックリしてしまった。
 とつぜん、あちこちの超高層ビルがばくはつされるという事件がおきたのだ。そして、「地球人につぐ」という、ばくはつ犯人からの声明文が公表された。
「地球人は宇宙のしっぱい作である。このままでは、聖なる青き星《地球》は、地球人の手により、台なしにされてしまう。よって、われわれ宇宙人は、地球人の進歩を止め、聖なる青き星《地球》を守ることにきめた」
というのだ。
 明のママなんて、その「地球人につぐ」をテレビで知ると、
「まったく、国はいままで、なにをしていたの。宇宙人が地球にきているの、知らなかったのかしら。無責任すぎるわよ」
と、プリプリおこりだした。
「ママ、おちついてよ。まだ、ほんとうに宇宙人がやったと、決まったわけじゃないだろ」 
 明がそういっても、ママは、
「じゃあ、だれがやったというの。宇宙人しかいないわよ」
と、きめつける。
 つぎからつぎへと、事件はおきつづけた。
 地下鉄がぼう走して事故をおこしたり、テレビにとつぜん宇宙人のすがた(なんと、あのジョージ・ウェルズの火星人そっくりのすがたをしていたのだ!)がうつりケタケタ笑ったり、人工えい星が太平洋におちてきたり、と信じられない事件がおきつづけた。
         3
 宇宙人そうどうが終わるまで、学校は全国的に休みになった。
 明は毎日、ママといっしょに、テレビを見てすごしていた。宇宙人そうどうばかりやっているので、なんだか、ほんとうに宇宙人があちこちに出没しているような気になってくる。
 一か月後、『宇宙人とりしまり法』という法律ができた。明は、そんな法律ができても、宇宙人がつかまるわけないと思っていた。ところが……。
 おどろいたことに、ほんとうに宇宙人がつかまりだしたのだ。さらにおどろいたのは、宇宙人は、地球人そっくりのすがたで、地球人そっくりの生活をしていた。
 そんなある日。浩司から、
「おい。明、話があるんだ」
と電話がかかってきた。
「なんだよ」
「ちょっと、ぼくんちまで、きてくれよ」
「電話じゃ話せないのか」
「ああ」
 というようなわけで、明は、浩司の家にいくことにした。
「宇宙人がうろついているから、知らない人に声かけられたら、にげるのよ」
と、ママに注意されていたので、明はママの忠告どおり、用心していった。
 明のくるのを待っていた浩司は、
「おい。たいへんな物、見つけちゃったんだ」
と、明を浩司の父親の部屋へ案内した。
 ひまにあかせて、浩司は、父親のパソコンで、あちこちのコンピューターにハッキングしていたのだそうだ。
「ある研究所のスーパーコンピューターにアクセスしようとしたんだ。パスワードがわからなかったから、じょうだんで、《ハルマゲドンより天丼が食いたい》と入れたら、こんなのがでてきたんだ。見てくれよ」
 浩司のゆびさす画面を見て、明は、
「ええっ!」
と声をだしてしまった。
 そこには、いまおきていることの計画書がうつしだされていた。
 まず、宇宙人が地球を征服しているというデマをながし、それから、宇宙人の手による事件をおこしていく。さらに、法律を作り、これから生きのびるのに値しない人間をつかまえていく、というのだ。
「おい。宇宙人が地球征服をたくらんでいるというのはウソだったのか」
「どうも、そうらしい。そして、いま宇宙人としてつかまっているのは、しょうしんしょうめいの地球人らしいぞ」
「ええ。じゃあ。どうしたら、いいんだ?」
「わからないから、明の知恵をかりようと思ったんだ」
「でも、だれが、なんのために、こんな計画、たてたんだ?」
「それもわからないんだ」
 二人は、ゾーッとした。
 浩司と明は、どうしたらいいか、話しあった。が、いい知恵はでてこなかった。
         4
 よく日。明は、テレビにうつしだされた浩司の家ぞくの顔写真を見て、
(ええっ。ウソだ!)
 息が止まるほどおどろいた。浩司の家ぞく全員が宇宙人として、つかまってしまったのだ。
「きのう、つかまった宇宙人は、百二十七人です。まだまだ、しのんでいますので、宇宙人と思われる人物を見つけたら、すみやかに、宇宙人とりしまり協会まで、れんらくをください」
 アナウンサーが事務的に話している。
「あれ? 浩ちゃんじゃない?」
 ママが浩司に気づいて、そういう。
「うん。でも、浩司は宇宙人じゃないよ」
「でも、ああやって、つかまったのだから、宇宙人にきまってるわ。まったく、いやに世の中になったものね。政治がわるいのよ。もっと、しっかりやってもらわないと、わたしたち、安心してくらせないじゃないの!」
 ママがまた政治のせいにした。
 明は、ママを相手にしないことにした。
(浩司。待ってろよ。ぜったい、助けるからな)
 そんなことより、あの研究所でなにがおこなわれようとしているのか、それをしらべなくてはならない。
 明は、信用できる仲間をあつめることにした。電話だとあぶないと思ったので、自転車で声をかけていった。
 集合場所は、中央公園のしばふの上だ。
 博、信也の二人も、自転車でやってきた。
 浩司のことはすでに知っていて、二人ともすごく心配している。
 明は、きのう見た計画書のことを話し、
「浩司がつかまったのと、あの計画書はぜったいに関係がある。で、ぼくのきおくが正しければ……」
といって、きのうパソコンで見た地球問題研究所という名をみんなにつげた。
「じゃあ、RPGの基本にのっとって、まずは、そこの情報を集め、役に立ちそうなアイテムをそろえて、ふたたび、ここに集合しよう。時間は四時」
「じゃあ。ぼくたちは地球の平和を守る戦士といったところだね。さらわれた仲間を助けだす旅に、いざ、しゅっぱーつ!」
 三人は街へちらばった。
         5
 明は本屋へいき、いろいろと調べ、ちょっとおなかがすいてきたので、とりあえず、いったん、家に戻ることにした。そして、そこで見たのは………。
 マンションの前に人だかりができていて、
「やあね。加藤さん一家、宇宙人だったらしいのよ」
と、やじ馬がおしゃべりしている。
(あのマンションで加藤といったら、うちだけだぞ)
 明は気づかれてはたいへんだと思い、電話ボックスのかげにかくれた。
 やがて、けいさつ官に両手をつかまれて、ママがでてきた。
「わたしは宇宙人ではありません。ほんとうです。信じてください」
と、もがきながら叫んでいるママ。
 でも、けいさつ官は、
「宇宙人はみんなそういうのだ。収容所で、ほんとうのことをきこう」
と、ママをパトカーでつれ去った。
(つぎは、ぼくの番だ。どうしよう?)
 明はとほうにくれてしまった。
 こうなったら、いまやろうとしていることを、どうしても成功させなくてはならない。 明は、人目をさけて、公園へ向かった。
 公園の例のしばふのところに、すでに二人がすわっていた。
「ママが、つかまってしまった」
 明のことばに、二人はおどろいている。
「あの研究所、意外と近くにあったぞ。となり駅から、歩いて十五分くらいのところにあるんだ」
 信也が地図をひろげた。
「こうなったら、どうしても、あの研究所の秘密をあばかなくてはならないな。ぼくのパパ、しんぶん記者だから、きっと、記事にしてくれるよ」
と、博がいう。父親のえいきょうか、博はいろいろなことを知っているし、本もたくさん読んでいる。
「いつ、しのびこむ?」
「もちろん、今夜さ。でも、ゆだんできないぞ。いいな」
 夜まで、うえ込みの中にかくれることにした。つつじの木と木のあいだが、トンネルのようになっていて、そこをもぐっていくと、ポッカリと広い空間ができているのだ。缶けりをやっていて、発見した秘密のアジトだ。
         6
 夜。明たちは、自転車で、その研究所に向かった。
 研究所は、白いコンクリートでできたりっぱな建物だった。2メートルくらいの高さのへいで囲ってある。
 三人は、門から中をのぞきこむと、
「どうやって、しのびこむ?」
「正面げんかんからはいるしかなさそうだな」
 げんかんには、ガードマンがいる。
 そんなことを話していると、ガラスドアの向こうに、職員らしい男がすがたをあらわした。プラスチックのカードを、ドアのわきの機械にいれると、ドアがひらいた。カードがないと、ひらかない仕組みになっているらしい。
 男は、ちゅうしゃ場の自動車にのりこんで、外へでていった。帰るらしい。
「とにかく、あのげんかんにいってみよう。もしかしたら、うちのマンションと同じで、ドアをこじあければ、あくかもしれないぞ」と、。
 明のマンションのドアは、暗証番号でひらく仕組みになっている。でも、明は、そんなめんどうなことはしない。ガラスとガラスのすきまにゆびをいれ、こじあけてしまうのだ。
「でも、あそこにガードマンがいるぞ」
 博がそういうと、信也が、
「じゃあ、あのガードマン、ぼくがなんとかするよ」
と、くらやみにまぎれて、ビルのうらてへ走っていった。
 しばらくすると、うらてで、パパンパンパンとはげしい音がした。ばく竹らしい。
 げんかんのところの小部屋からガードマンが二人とびだして、うらてへ走っていく。
「よし。いまだ」
 明たち二人は、げんかんへ走った。
 二人がドアに近づくと、
「イラッシャイマセ。カードヲオ入レクダサイ」
と、やさしい女の人の声がした。機械がしゃべっているのだ。でも、その声を無視して、明はいつものやり方で、ドアをこじあけようとした。
「ソウイウコトヲスルト、警報ヲ鳴ラシマス。カードヲ、オ入レクダサイ」
「うるさいな。カード、わすれたんだよ」
「デハ、暗証番号ヲ、押シテクダサイ」
「そんなの、知らないよ」
「デハ、オ通シデキマセン。オ帰リクダサイ」
 帰るわけにはいかない。明はわきの機械に目をやった。A〜Zのボタンがならんでいる。 それを見て、ピンと来るものがあって、
「わかったよ。いれるよ」
というと、例の「ハルマゲドンより天丼が食いたい」と、明は入力してみた。
 ドアがひらいた。
「ドウゾ、オ通リクダサイ」
 二人がドアを通ろうとしたとき、信也がかけこんできた。
         7
 大型トラックくらいの大きさのコンピューターが3台、コンピューター室の真ん中にあった。そして、だれもいないのに、ウイーン、ウイーンとうなり声をあげている。なにかを計算しているらしい。
 明たち三人が、その部屋に入ると、
「イラッシャイマセ。質問ヲドウゾ」
 コンピューターが語りかけたので、明は、
「ママと浩司は、どこにいるのですか?」
「ママトイウノハ、ダレデスカ?」
「加藤洋子です」
「フタリハ、イマ、第5収容所ニイマス」
「ふたりをだしてください」
「ダメデス。山本浩司ハ、ワレワレノ秘密ヲ知リスギマシタ。加藤洋子ハ、ナンデモ他人ノセイニスルノデ、生キル資格ガアリマセン」
 たしかにコンピュータがいうように、ママにはそういう欠点がある。でも、明には、たった一人のママだし、やさしいところもあるのだ。
 泣きたい気分になってきて、明はだまってしまった。
 こんどは、博が、
「どうして、宇宙人のとりしまりといいながら、人間をつかまえるんですか」
 ビクビクしながら質問した。
 さすが、しんぶん記者の息子だけはある。いまおきていることの真相をさぐりだそうとしたのだ。
「人類ガフエスギタカラデス。世界ノ人口ハ今70億人デス。ソノウチ、11億人ガ食ベルモノモナイ状態デス。コノママ人口ガフエツヅケルト、人類ハ人口バクハツデ、ホロビマス。デスカラ、手オクレニナラナイウチニ、適正ナ人口ニ引キモドスコトニシタノデス……」
 コンピューターは、そんなこわいことを、平気でしゃべりつづける。そして、大きな液晶画面に、栄養失調で死にそうになっている子供たちのすがたを、うつしだした。
 三人はあまりのむごさに、とりはだがたってきた。
「やめてくれ!」
 信也が叫んだ。見たくなかったのだろう。
「ハイ。ワカリマシタ」
と、コンピューターがしゃべり、液晶画面は黒くなった。
「そんなの、でたらめだ。ぼく、知ってるぞ。
地球上には100億人分くらいの食料はあるはずだ!」
と、博がつづいて叫んだ。
「ハイ。ソノ通リデス。デモ、人類ハ愚カスギテ、100億人分ノ食料ガアッテモ、11億人ハ飢エテ死ニソウニナッテイルノデス……」 
 明は、
(人間はそんなバカではないはずだ)
 コンピューターの説明を聞くまいとして、耳をふさいだ。そして、
「そんなの、ウソだ。ぼくたちはバカじゃない。みんなに食べ物がゆきわたる社会くらい、作っれるぞ」
 コンピューターに向かって、思わず、どなってしまった。
「イマノ発言ニ、マチガエガアリマス。子供ハ、バカデス。愚カナ大人ニナル前ノ、バカデス」
 明は「ぼくたち人間」のつもりでいったのだが、コンピューターは「ぼくたち子供」とかんちがいしている。
「バカナ子供ガ学習シテ、愚カナ大人ニナルノデス。子供ハ、自分タチデハ、ナニモデキナイ。ツマリ、バカデス……」
 コンピューターは、
「子供はバカ」
だといいつづける。
 三人はだんだん、はらがたってきた。
「そんなことないぞ。お前こそ、バカじゃないか。なあ、みんな!」
 明のことばに、ほかの二人も、
「そうだ。お前こそ、バカだ!」
「ぼくたち子供はバカじゃない!」
と、いいたてた。
「ソンナコトハナイ。私タチコンピューターハ、リコウデス」
「ちがうぞ。バカだ」
「チガイマス。バカハ子供デス」
 おたがいに相手がバカだといいつづけているだけで、いくらたっても、結論がでない。
「ワカリマシタ。デハ、ドチラガ頭ガイイカ、仲間タチト相談シテミマス」
 コンピューターはそういうと、ウイーン、ウイーンとうなり声をたてはじめた。
         8
「結論ガ、デマシタ」
 やく一時間ご、コンピューターが話しだした。
「トテモ、ムズカシイ問題デシタノデ、時間ガカカリマシタ。結論ヲイイマス。アナタガタガイウヨウニ、子供タチハ、バカデハアリマセン」
「やったあ!」
と、三人はとびはね、だきあった。
 明は、すかさず、
「だったら、バカなコンピューターは、りこうな子供のいうことをきくのだぞ」
「ハイ」
「だったら、ママと、浩司を返してよ」
「ハイ」
 コンピューターの返事に、
「やったあ」
 明はガッツポーズをとった。
「じゃあ、今の計画も中止しろ。いいな」
 博がめいれいした。
「ハイ。ワカリマシタ。デハ、私ハ、コレデ失礼シマス。コンピューター・サミットノ臨時総会ニ出席シ、地球ヲスクウ方法ニツイテ、話シ合ワナクテハイケマセンノデ……」
 コンピューターはおしゃべりを止めると、ふたたび、ウイーン、ウイーンとうなり声をたてはじめた。
「やったあ。ぼくたちは、コンピューターのおそろしい計画を止めさせて、仲間をすくいだしたんだね」
 信也がよろこんでそういうと、博が、
「でも、ぼく、ショックだったなあ。地球上に、あんなに、困っている人たちがいるとは思わなかったし……」
と、ちょっとしんみりした声だ。明も、
ほんとうにそうだよな。コンピューターだけに、まかせておけないよな」
「そうだよ。ぼくたち、コンピューターのわるだくみをとめられたんだ。だから、困っている人たちだって、たすけられるはずだよ」 
 信也がそういう。
 明も同じ気持ちだったので、ウンとうなずき、三人、ガッチリとあくしゅした。
 もう、夜中の一時すぎだった。
         9
 よく朝。
 職員たちが、出社しだした。研究所が、にわかにそうぞうしくなってきた。
 研究所の所長は、いつもどおり、コンピューター室にはいると、
 「おはようございます。今日の計画はどのようになっているのでしょうか?」
と、コンピューターにおうかがいをたてた。
 彼の朝一番のしごとは、コンピューターがたてた計画を、政府とか、宇宙人とりしまり協会とかへ、れんらくすることだ。
「オハヨウゴザイマス。イイ天気デスネ」
 コンピューターのあいさつを耳にして、
(あれっ?)
と、所長は思った。コンピューターが天気のことを気にするなんて、いままでなかったことだから。
「ずいぶんと、きげんがいいみたいですが、なにか、いいことでもあったのですか?」
「ハイ。昨夜、世界中ノコンピューターガ集マッテ、臨時総会ガ開催サレマシタ。ソシテ、地球ヲスクウ、トテモ素敵ナ計画ガ生レマシタ」
「そうですか。それはすごい」
「ソノ計画ヲ打チダシマス。スミヤカニ、関係シテイル人タチニ、伝エテクダサイ」
 コンピューターが、タタタタッとすごいスピードで、今日一日の計画を打ちだしはじめた。
 その計画書には、宇宙人とりしまり計画の中止、宇宙人の釈放などが書いてあった。
 それを見て、
(よかった。あの計画、気がおもかったんだよな)
 人口を減らし、地球を守る計画を、所長は好きではなかったのだ。
 所長は、どんな計画が生まれたのか、楽しみにして、読んでいった。
 ところが、その計画書には、げんざい地球がかかえている人口ばくはつ、エネルギー問題、かんきょう破壊などの問題に、少しもふれていない。
 教師は子供たちに選ばせよう。子供の好きなことを自由に学ぶ時間を作ろう。宿題はなくそう。イタズラは、他人に迷惑をかけないかぎり、ゆるそう……などと、子供たちのことばかりが書いてあったのだ。
「ちょっと、待ってください。これ、ほんとうに地球をすくう計画書なのですか?」
 所長がコンピューターに声をかけた。
「ハイ。ソウデス。地球ヲ守ルタダ一ツノ方法ハ、子供タチガ秘メテイル無限ノ可能性ヲ、引キ出スコトデス。コレシカ、地球ヲスクウ方法ハ、アリマセン」
「でも、こんなことで、地球がすくわれるとは思えないのですが……」
 所長は、まだコンピューターがだした結論を信じられないでいた。
「ダイジョウブデス。子供タチハ、バカデハアリマセン。カナラズ、私タチコンピューターヨリ、スゴイ計画ヲタテ、地球ヲスクイマス」
 コンピューターはそういうと、ふたたび、つづきの計画書をすごいスピードで、タタタタタッと打ちだしはじめた。
 そのタタタタッというここちよい音は、まるで、コンピューターが笑っているようだった。
                          (おわり)
 学研「読物特集」に掲載



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by spanky2011th | 2011-08-21 12:51 | 童話 私の短編

「へんなペット」  

「へんなペット」  

   
「これなんか、どう?」
 小学生六年生の俊介がグリーンイグアナを指さして、友達の光一にそういうと、光一は首をふった。
「ありきたりだよ。もっと珍しい生き物、ペットにしたいんだ」
 二人がいるのは、毒グモ、ワニ、コウモリ、陸ガメ……と珍しい生き物ばかりを扱っている店。お年玉でもらった一万円でペットを買いたいと光一がいうので、おもしろそうだと思った俊介はつき合うことにしたのだ。
「じゃあ、こっちへ来なさい」
 いつ来たのか、不機嫌そうにレジのところにいた店主がそばに立っていて、声をかけてきた。
 二人が連れていかれたのは、レジの奥にある小さな部屋で、十いくつものガラスケースや鉄のおりが置いてあった。ほとんどが、からっぽだった。
「予算はいくらかな」
「一万円です」
「そうか。だったら、こぶだな。きのう入荷したばかりの、活きのいいのがあるよ」
「子豚?」
「ちがう。コブ。あのコブとりじいさんのコブだ」
「うそ!」
「うそじゃない。あのコブは、パラサイト、つまり寄生するコブなのだ。そうでなかったら、とったり、くっつけたりできるわけがないだろ。そのコブは野生のコブを新種改良したもので、人体には影響はないのだ。」
 店主が、二人をコブのところへ案内した。
「コブだ」
 四角い囲いの中に、子豚がいた。
「子豚じゃないの」
 俊介は、からかわれているような気がした。
「ブタについているのがコブだ」
 たしかにブタのからだには、一センチほどのピンク色のコブがいくつもついていた。
 でもそれはコブというよりイボだった。イボイノシシというのがいるのだから、イボブタがいてもいいのではないか。やはり、からかわれている気がした。
「信じてないな。よし」
 店主は手をおりにつっこんで、ブタの首すじについていたイボをつまみとった。そして、光一のあごの下に、くっつけたのだ。
 光一はおどろきの表情をし、それから、うれしそうにほほえむと、
「これ。すごいや。買う、買う」
と、お金を出した。
 あんな奇妙なものを買う光一の気持ちが、俊介にはわからなかった。

 忘れたころに天災はやってくるというが、それから数年後、高校一年生になったばかりの光一に、とんでもない災難が降り注いだ。
 はじめは風邪だった。ところが、それをこじらせて肺炎になり、ギックリ腰になり、ころんで足を骨折し……、と病気とケガのオールスターそろい踏みになってしまったのだ。このままだと、留年は確実。
 「留年だけはしたくない」
 と先生に粘りに粘って頼み込んで、
「学年末テストで赤点を取らなければ、進級させてやる」
 との先生の約束を取り付けた。出席日数の足りないのはなんとかする、と。
 それから光一は死に物ぐるいで勉強した。ほとんどの教科の日数が足りなく、その上、まったくのお手あげ状態だったので、赤点の30点をクリアするのも容易ではなさそうだ。
 そして試験当日。登校途中の道でばったりと光一と出会った。
「やあ。どうした。さえない顔して」
 中学の卒業以来だった。わけを光一に話すと、
「そうか」
とつぶやいてから、少し考え込んで、
「しかたない。コブ、貸してやろうか」
といった。
「コブ?」
 俊介は、光一のあごの下にくっついているコブに目をやって、小学生の時の記憶をよみがえってきた。そこにあるのが当たり前になっていたので、二人で買ったことも忘れていた。
「友達だから、特別にだぞ。他の人にはいうなよ」
 そういうと、光一はあごの下のコブを取ると、俊介のあごの下にくっつけた。
「みっともないよ」
 俊介が文句を言うと、光一は口を動かさずに、
「そんなこというと、コブが気を悪くする。とにかく、がんばれよ。」
と、言ってきた。
 あれっ、と思った。
「そういうことだよ。コブをつけていると、相手の考えていることがわかるんだ。」
 口を動かさずに光一がそう答えると、いま来た道を引き返そうとする。
「学校へ行かないのか」
というと、
「コブのない姿で、学校いけるわけないだろう。きょうは、休み、休み」
 コブを通して、返事が返ってきた。
 教室には半分以上の生徒が来ていた。でも、俊介ほど追い込まれていないので、みんな、意外とあっけらかんとしている。
「おい。どうした。今度はムチウチか」
  首に巻かれた包帯を見ると、何人かが、からかいにきた。
 俊介はコンビニで包帯を買って、コブをかくして登校したのだ。
「ばかだなあ」
と、口に出すものもいる。
 コブを通して聞こえてくる声も、似たり寄ったり。
 でもひとつだけ、
「俊介君、かわいそう」
という同情の声が聞こえた。女の子の声だった。
 俊介は、その声の主を探そうと目で探したが、見つからなかった。
 いまでは、俊介の包帯姿にはみんながみんな見慣れているので、だれもなんとも思わない。
 テストは、意外によくできた。というよりも、耳を澄ましていると、秀才とかガリ勉とかよばれている生徒の声が聞こえてくるのだ。 一日目のテストが終り、ホームルームのとき、また、
「俊介君、できたかなあ」
という声が聞こえてきた。
 コブをつけているというのは、意外と大変なもので、なにが大変かというと、やたらうるさいのだ。
 でも、半日もつけているうちに、コツを覚えてきた。
 俊介は、
「できたよ」
と、声に出さずに答えると、女の子が、
「えっ!」
とおどろきの声を出した。
「おい。早川、どうした」
 教壇で話していた先生が、早川という女の子をしかった。
 顔に紫のアザのある目立たない、口数の少ない子だった。長い髪で、いつもうつむいて、本ばかり読んでいて、顔をまともに見たことがない。
「早川さん。おどろかして、ごめんね」
「ううん。俊介君、聞こえるの?」
「ああ。聞こえる。君、もしかしたら、コブ、飼っているの?」
「コブ?」
「そう。コブ」
「なに、それ?」
「コブとりじいさんのコブだよ」
「ううん」
「じゃあ、超能力者?」
「ううん」
「じゃあ、なんなの?」
「いわないでね。ちょっと、こっち見てくれる。あたしの飼っているのはね……」
 俊介は、さりげなく振り返ると、声の主の早川を見た。
 両手でほほづえをついていた早川は、さっと左手をほほからはなすと、
「あたしのペットはアザ」
という声とともに、アザのない素顔がでてきた。そして、すばやく手をもとに戻した。
 あっ、かわいいと俊介は思った。
 見る見るうちに、ほほづえをついた早川の顔が赤くなっていった。
                                                                   (おわり)

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by spanky2011th | 2011-08-02 11:30 | 童話 私の短編

悪魔の代理人

悪魔の代理人



   ジャコバン僧会も、この世にはじめて現れたときには 
   一見純な姿で登場した、この大団体は
   はじめはちょうど深い水が流れを作らず、
   ぐるぐる円を描いてまわっているようだった。
   はじめのうちはほんのすこししか望まず、
   すこしばかりの敷わらとか茎束とかわら束とか。
   神の御名において足で歩く貧乏人たちに説教した。
   だが足で歩くものたちに働かせるだけだった、
   こうして大金もうけて、僧侶も俗人もいっぱいかかえた、
   地を這う建物を壮大な宮殿に作りかえた。
           (ジャコバン僧会の物語)

 巨大な組織は、まるで生き物のようにふるまう。
 イエスという一人の宗教家の起こした波は、民衆の心に、神への信仰心をかきたてたが、やがて教会ができると、その教会は「穀物が凶作なのは信仰心が薄いからだ」とおどし、また「黒死病がはやったのは教会を裏切ろうとする者がいるからだ」とおどし、民衆の不幸を利用して、教会への布施を集めることに専念した。
 やがてその権力の甘い蜜に酔いしれた者たちは、イエスの心とは裏腹に、聖職者とは名ばかりで、腐敗し、権力争いにあけくれ、民衆を弾圧し、「魔女狩り」の名のもとで多くの民衆を殺しだした。
 一五五五年。ジョバンニ・ピエトロ・カラファという男が教皇の座につき、パウルス四世と名乗った。彼は、七十九才の老人であったが、年のわりには元気がよく、闊歩しては精力的に働いた。
「ルターの真似する奴はことごとく異端であり、破門すべきだ」
 彼が新教皇になる十年前には、あの宗教改革のマルチン・ルターは死んでいたが、彼が火をつけた宗教改革の炎はあちこちでくすぶり続けていた。
 三大発明の一つとされる印刷によって、ルターの本は広く読まれていたのだ。そして、ジョバンニはなんとか、その火を消そうと躍起になっていたのだ。
 トマス・アクティナを尊敬する彼は、骨の髄までガチガチのカトリックで、彼の考えるキリスト教から逸脱するものには、遠慮なく異端のレッテルを張り付けた。
「もし、あの男の母親が、将来こんな男になると思っていたら、生んだときにきっと奴の首をしめていたにちがいない」
 彼のお膝元のローマっ子たちがそういいあっているのを耳にしても、彼は動じなかった。
 かえって、
「やつらになにがわかる」
とパウルス四世はうそぶき、宗教的信念から、異端を排除し、自らの考えに従わせようとした。

 彼は狂信的で独善的であった。彼は、自分の考えのみが正しく、他人の意見に耳を傾けることができなかった。もし、そんな人物が現れようものなら、たちまちベスビオ火山のように突然噴火し、嗄れた声で口汚なくののしり、吠えまくり、そして、盲目的に服従を約束するまで許さなかった。
「神よ。あわれな子羊たちをお救いください。神の代わりに悪魔とその手下たちと私は戦っているのに、だれ一人、心から私の言葉に従おうとしません。かえって、あなたの教えに逆らい、あなたに弓を引こうとしています」
 彼は毎晩、ひとり、教皇室で祈りを捧げた。彼の信仰心はだれにも負けなかった。
 すると、どこからともなく、
「神に逆らうものは悪魔であり、その手下の魔女です。まだまだ、お前の努力は足りない。早く、やつらを取り除きなさい」
という声が聞こえてくる。彼の心の中からも知れなかった。
 彼は歴代教皇の中でも、珍しいほど信仰心が厚く、子どもの頃より、毎日毎日、熱心に祈りを捧げていた。
 その祈りが通じたのか、いつしか、神の声が聞えるようになっていたのだ。
 彼は神のために、老体に鞭を打ち、働きに働いた。
 リューマチで歩けないときでも、教皇庁の木曜会議には欠かさず出席し、そして、異端対策を練るのに余念がなかった。
 プロテスタントは当然として、彼は、民間に伝わる呪術(たとえそれが豊穣や病気克服を祈る素朴なものであっても)を行う者、さらには私通を犯した者、男色、役者、道化、四旬節に肉を食べた者、すべてを死刑にするように命令した。
 また、当然のように、イエスの裏切り者の末裔・ユダヤ人には、迫害を加えるように指示していた。
 やりすぎではないか、という声が枢磯卿の中から上がると、彼はどなり散らしたあとに、
「もし、いまここにイエスさまがいらっしゃったら、私と同じことをするはずだ」
 こう、確信に満ちた声で断言した。



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by spanky2011th | 2011-07-30 21:44 | 童話 私の短編

優等生なんかになりたくない

 優等生なんかになりたくない   

 ある日のこと。空飛ぶ円盤が宇宙のかなたから飛んできて、世界のあちこちにおりたった。それを見ていた者はどこにもいなかった。
         1
「それでは、学級委員には井上雅之くんと望月深雪さんにやってもらうことにします」
 司会がそうつげると、めずらしいことに教室に拍手がおきた。拍手は、望月深雪にむけられたものだ。
 ちょっと引っかかるものを感じながら、真亜子も、みんなといっしょに拍手をした。
 深雪が学級委員になるなんて、数か月前では考えられないことだった。地味で、おとなしくて、成績は下から数えた方が早いくらいの子だったのだ。ところが、ある日から、テストではいつも百点をとるようになり、授業中もすすんで手を上げるようになったのだ。
 深雪が、とつぜん、どこから見ても優等生になってしまったのだ。
 真亜子は、他人のことをねたんだり、そねんだりする性格ではない。だから、深雪が変わったことを、自分のことのようにうれしいと思う。
 でも、ただひとつ、気になることがあった。それは、深雪がいつもつまらなそうな顔をしていることだった。
 真亜子は拍手をしながら、チラリと、それまで学級委員だった辻由美子を見た。
 人を小バカにするクセのある由美子は、信じられないといった顔つきをして、下くちびるをかんでいた。

 深雪が学級委員になると、クラスのふんいきが変わっていった。どう変わっていったのかというと、いい方へ変わっていったのだ。
 はじめに、由美子が変わった。あの日から深雪を「フン」と無視しつづけていたのに、数日後、とつぜん、深雪と仲良しになり、その上、人を小バカにするクセがなくなった。 
 どうも優等生は伝染するらしい。
 優等生が2人あらわれると、あっという間に、宿題をわすれる子もいなくなり、友達にいじ悪する子もいなくなり、休み時間には、つぎの授業のじゅんびをして静かに待っているようになったのだ。
 こんなふうに、クラス全体が優等生になっていく。それと同時に、みんながつまらなそうな顔になっていく。
 真亜子には、なにがどうなってしまったのか、ちっともわからなかった。


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by spanky2011th | 2011-07-18 21:27 | 童話 私の短編

「いじめ対策」

 ぼくらの教室に転校生がやってきた。
「転校生だからといって、バカにしたら、しょうちしないぞ!」
 みせんにしわを寄せ、教室をなめるようににらみ、すごんでしゃべる彼。ぼくらは、口にこそださないが、いやだなあ、と思った。
 彼は、やはり、いじめっ子だった。
 ぼくらは、自分たちでいうのもなんだけど、いじめもしなければ、いじめられもしない、ふつうの子が集まった教室だった。
 いじめっ子のなにげない言葉、なにげない行動が、ぼくらの心を、トゲでチクリ、チクリと、つっつき、イライラさせた。
 最初のぎせい者は、まじめな山田だった。
 班長だった山田が、そうじのとき、さぼっている彼を、オドオドと注意したのだ。
「なに、おれに、そうじをしろだっと!」
 いきなり、天井の「いじめ探知機」がジリジリと鳴りだした。その音をききつけて、教師たちがすっとんできて、あっという間に、山田をつれ去ってしまった。
 一昔前、「いじめ」が社会問題になったとき、政府がその対策に作ったのがこの「いじめ探知機」。とびかう声の中に「いじめ被害」の信号が含まれていると、作動するしかけになっている。
 三日後、山田は「いじめに負けない子」になって、教室へもどってきた。うわさでは、特別な薬をのまされて、特別な授業を受けさせられるのだそうだ。
 二人めのぎせい者は、小宮さんだった。副学級委員長の彼女は、勉強がおくれている彼に、親切に教えていたのだが、つい、
「いままで、なにを勉強してきたの!?」
といってしまったのだ。そしたら、彼は、
「なんだと!」
と、小宮さんをひっぱたいた。
 彼女は、あっという間に、教師につれさられてしまった。生まれてはじめて他人にたたかれた彼女はショックで泣きじゃくっていた。
 その日の放課後、ぼくらは、赤さびだらけの校庭のジャングルジムにのぼって、これからのことを相談しあった。ここしか、「いじめ探知機」のないところはないからだ。
 これ以上、ぎせい者をださないために、ぼくらは、彼をジャングルジムに呼び出し、
「たのむから、どこかへ、転校してくれないかな」
と、たのんだ。いのるような気持ちだった。
「転校生だから、おれを仲間はずれにしようというんだな。わかったよ。いなくなってやるよ」
 ぼくらは、仲間はずれにしようというのではない。これ以上、ぎせい者をだしたくなかっただけだった。なのに……。
 彼は、その足で校舎の屋上にゆき、飛び下りてしまった。そして数時間後、ぼくらは、警察官によって、つかまってしまった。


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by spanky2011th | 2011-07-05 17:50 | 童話 私の短編

「ムカぶくろの反乱」

「ムカぶくろの反乱」

 退屈だったので、壁テレビのスイッチをつけると、康平君が画面いっぱいのアップで映し出された。康平君は、いま一番人気のある男性アイドルで、いま映っているのは、いま一番注目されている新製品のCM。
 康平君はジャガーのような攻撃的な目で、
「オレ、キレそう」
というと、胸ポケットから二十センチ角くらいの赤いふくろをとりだし、その中になにかをわめきちらす。そして、深呼吸をすると、母象が小象を見るようなやさしい目になり、
「フーッ」
と、ため息をつくのだ。
 きゅ〜ん。母性本能というのかな。とにかく、胸のあたりがしめつけられる感じ。
 と、いきなり、父が部屋に入ってきて、
「電気代がもったいない。用もないのに、テレビ、つけるな」
と、スイッチを切った。
 もう、ムカつく。会社をクビなってからというもの、となりの部屋でゴロゴロしているだけで、仕事をさがそうともしていない。仕事人間だった父のプライドがすごく傷ついたのはわかるけど、なにも、こんなことで、あたしに当たることはないのに!
 すぐに、あたしは学習かばんから旧タイプの「ムカぶくろ」をとりだし、口を当てて、中にわめきちらした。
「フーッ」
 それから、だまったまま「ムカぶくろ」を父に差し出す。父もひったくるようにとり、中に不満をぶちまけると、
「フーッ」
 正式名称は、突発性精神なんとかかんとか抑制機という、とてつもなく長い名前で、千人に一人、ちゃんといえるかどうか。
 で、みんな、「ムカぶくろ」とか、「キレぶくろ」とか、呼んでいる。
 一見、ただの布のふくろなんだけど、なんでも、ナノ・マシーン(ミクロより小さい精密機械)を織った布が、不満や怒りを分析し、その内容にあった精神安定剤をふくろの中に発生させるんだって。
 素材は地球上にたくさんあるシリコン。でも、無重力の宇宙工場でなくては作れないので、値段はとにかく高い。けど、その効果はバツグンだから、いまじゃ、二人に一つのわりで、持っている。
 学校の先生なんて、全員持ってて、授業中に、三回も四回も使っている先生がいるくらい。でも、とうぜん、生徒の授業中の使用は禁止。ムカつくったらありゃしない。


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by spanky2011th | 2011-07-04 12:46 | 童話 私の短編