フカヒレスープの冒険(11)
11
ウインチをのみこんだ大ザメは、まずそうにゲップをすると、からだをゆすり、海にもどっていきました。
でも、ようすが、どこか変です。
あれほど、しつこくこうげきしていたのに、こうげきをしかけてくるようすがありません。それどころか、コンチキ2号の方に向きをかえようとするのですが、向くことができないでいるようなのです。
それも、そのはずです。
ウインチを飲み込んでしまったため、最初にきたあのサメと、鉄のチェーンでつながってしまっているからです。
「もう、だいじょうぶですよ。ロープ、ほどいてください。ちょっと、失礼」
矢古さんはそういうと、マストのところへいきました。
田西さんは、モップを両手にかかえ、まだ、海の大ザメをにらみつけています。
「船長、もう、だいじょうぶです。たすかりましたよ」
矢古さんがそう声をかけたとたんです。田西さんは、モップをカタンと落とし、からだから力がぬけてしまいました。まるで海から出たクラゲです。
でも、気力だけはのこっているみたいで、
「ひろしはだいじょうぶですか? 」
と、真っ先にたずねました。
矢古さんは、
「ひろしくん、ひろしくん」
ぐっすりねこんでしまっているみたいなひろしをゆすりました。それから、ほほをパチパチタたたくと、
「う、うーん」
気を失っていたひろしが、ゆっくり目をあけました。
「船長、ひろしくんはぶじです。のりくみ員もみんなぶじです」
「そうですか。それはよかった」
田西さんはそうつぶやくと、
「う、うーん」
と、こんどは田西さんが気を失ってしまいました。あのすさまじい戦いで、田西さんは、体力も気力も使いはたしてしまっていたからです。
「パパ、パパ」
パパが死んでしまったものと勘ちがいして、ひろしが気がくるったみたいに、田西さんのからだをゆすりだしました。
ひろしは、気を失っていたので、なにがどうなっているのかわからなかったのです。
「ひろしくん、船長はだいじょうぶですよ。それより、ロープをほどいてあげましょう」
矢古さんとひろしは、船長をひきずるように、デッキへつれていきました。
「矢古さん、これを飲ましてあげてください」
船室から水を取ってきた藤壺さんが、いいました。
飲ますと、
「ううーん」
と、田西さんは気を取り戻しましたが、疲れはてているため、起き上がれません。
「矢古さん。サメはどうなりましたか」
「船長、見てください」
矢古さんが指差したところでは、二匹のサメが、じっと、たがいをにらみあっていました。
いかりをのみこんだサメは、ウインチをのみこんだサメに引っぱられて、海上に浮かんできていたのです。といっても、正確には、サメが引っぱったわけではなくて、チェーンがどんどん短くなって、引っぱり上げられたわけですが……。
たたみ4枚分のサメは、たたみ6枚分のサメを見ると、おびえて、
はじめは、海からジャンプし、からだをはげしくゆすっていました。
チェーンを力まかせに切ろうとしたのです。でも、切れないとわかると、かくごを決めたとみえて、もう、あがこうとはしませんでした。
一方、たたみ6枚分のサメの方も、たたみ4枚分のサメを目にするまでは、コンチキ2号の方に向きをかえようともがいていました。でも、たたみ4枚分を見てからは、たいどがガラリと変わりました。
ちょうと、田西さんたちは、サメが相手の出方をお互いにさぐりあっているところを、目にしたのです。
はじめに動いたのは、6枚分です。
流水型のからだをくねらせたかと思うと、スイーッと4枚分の方に進みました。
それを見た4枚分も、からだをくねらせ、6枚分めがけて、泳ぎ出しました。
ドスン。
二匹のサメが、とんがった頭と頭とで、ぶつかりました。ぶつかったかと思うと、こんどは、大口をあけて、相手の大口に、ガブリ、ガブリと、かじりはじめました。
その戦いの、すさまじいの、すさまじくないのって!
一匹が相手のわきばらにかみついたかと思うと、相手のサメが尾びれにかみつきかえします。
一匹が尾びれで相手のからだをたたくと、もう一匹も、倍がえしで、ビチビチとたたきかえします。
二匹がすさまじい戦いをやっているところは、ボコボコと波がうずまき、あたりには、しぶきがまいあがりだしました。
太陽の光がそのしぶきに当たるので、くっきりと七色のにじがかかっていました。
6枚分のサメが白いおなかを見せて、にじの橋めがけて、大きくジャンプしました。そして、橋をとびこえると、大きな口をめいっぱい開き、もう一匹の首すじめがけて落ちていきました。
ガブリ。
二匹は、落ちてきた勢いで、そのまま、海の中にもぐっていきました。
ボコボコ。ボコボコ。
まだ、はげしいたたかいをしているのでしょう。海の中から、ボコボコ、ボコボコとあわが浮かんできます。
ボコボコいっていたあわが、小さくなって、ポコポコになりました。そして、それが、やがて、プチプチになったかと思うと、あわが浮かんでこなくなりました。
戦いはおわったみたいです。 (つづく)
ウインチをのみこんだ大ザメは、まずそうにゲップをすると、からだをゆすり、海にもどっていきました。
でも、ようすが、どこか変です。
あれほど、しつこくこうげきしていたのに、こうげきをしかけてくるようすがありません。それどころか、コンチキ2号の方に向きをかえようとするのですが、向くことができないでいるようなのです。
それも、そのはずです。
ウインチを飲み込んでしまったため、最初にきたあのサメと、鉄のチェーンでつながってしまっているからです。
「もう、だいじょうぶですよ。ロープ、ほどいてください。ちょっと、失礼」
矢古さんはそういうと、マストのところへいきました。
田西さんは、モップを両手にかかえ、まだ、海の大ザメをにらみつけています。
「船長、もう、だいじょうぶです。たすかりましたよ」
矢古さんがそう声をかけたとたんです。田西さんは、モップをカタンと落とし、からだから力がぬけてしまいました。まるで海から出たクラゲです。
でも、気力だけはのこっているみたいで、
「ひろしはだいじょうぶですか? 」
と、真っ先にたずねました。
矢古さんは、
「ひろしくん、ひろしくん」
ぐっすりねこんでしまっているみたいなひろしをゆすりました。それから、ほほをパチパチタたたくと、
「う、うーん」
気を失っていたひろしが、ゆっくり目をあけました。
「船長、ひろしくんはぶじです。のりくみ員もみんなぶじです」
「そうですか。それはよかった」
田西さんはそうつぶやくと、
「う、うーん」
と、こんどは田西さんが気を失ってしまいました。あのすさまじい戦いで、田西さんは、体力も気力も使いはたしてしまっていたからです。
「パパ、パパ」
パパが死んでしまったものと勘ちがいして、ひろしが気がくるったみたいに、田西さんのからだをゆすりだしました。
ひろしは、気を失っていたので、なにがどうなっているのかわからなかったのです。
「ひろしくん、船長はだいじょうぶですよ。それより、ロープをほどいてあげましょう」
矢古さんとひろしは、船長をひきずるように、デッキへつれていきました。
「矢古さん、これを飲ましてあげてください」
船室から水を取ってきた藤壺さんが、いいました。
飲ますと、
「ううーん」
と、田西さんは気を取り戻しましたが、疲れはてているため、起き上がれません。
「矢古さん。サメはどうなりましたか」
「船長、見てください」
矢古さんが指差したところでは、二匹のサメが、じっと、たがいをにらみあっていました。
いかりをのみこんだサメは、ウインチをのみこんだサメに引っぱられて、海上に浮かんできていたのです。といっても、正確には、サメが引っぱったわけではなくて、チェーンがどんどん短くなって、引っぱり上げられたわけですが……。
たたみ4枚分のサメは、たたみ6枚分のサメを見ると、おびえて、
はじめは、海からジャンプし、からだをはげしくゆすっていました。
チェーンを力まかせに切ろうとしたのです。でも、切れないとわかると、かくごを決めたとみえて、もう、あがこうとはしませんでした。
一方、たたみ6枚分のサメの方も、たたみ4枚分のサメを目にするまでは、コンチキ2号の方に向きをかえようともがいていました。でも、たたみ4枚分を見てからは、たいどがガラリと変わりました。
ちょうと、田西さんたちは、サメが相手の出方をお互いにさぐりあっているところを、目にしたのです。
はじめに動いたのは、6枚分です。
流水型のからだをくねらせたかと思うと、スイーッと4枚分の方に進みました。
それを見た4枚分も、からだをくねらせ、6枚分めがけて、泳ぎ出しました。
ドスン。
二匹のサメが、とんがった頭と頭とで、ぶつかりました。ぶつかったかと思うと、こんどは、大口をあけて、相手の大口に、ガブリ、ガブリと、かじりはじめました。
その戦いの、すさまじいの、すさまじくないのって!
一匹が相手のわきばらにかみついたかと思うと、相手のサメが尾びれにかみつきかえします。
一匹が尾びれで相手のからだをたたくと、もう一匹も、倍がえしで、ビチビチとたたきかえします。
二匹がすさまじい戦いをやっているところは、ボコボコと波がうずまき、あたりには、しぶきがまいあがりだしました。
太陽の光がそのしぶきに当たるので、くっきりと七色のにじがかかっていました。
6枚分のサメが白いおなかを見せて、にじの橋めがけて、大きくジャンプしました。そして、橋をとびこえると、大きな口をめいっぱい開き、もう一匹の首すじめがけて落ちていきました。
ガブリ。
二匹は、落ちてきた勢いで、そのまま、海の中にもぐっていきました。
ボコボコ。ボコボコ。
まだ、はげしいたたかいをしているのでしょう。海の中から、ボコボコ、ボコボコとあわが浮かんできます。
ボコボコいっていたあわが、小さくなって、ポコポコになりました。そして、それが、やがて、プチプチになったかと思うと、あわが浮かんでこなくなりました。
戦いはおわったみたいです。 (つづく)
by spanky2011th | 2011-10-04 19:31 | 長編童話 ふかひれスープの冒険