第一章 スコールの中で(2)

約210枚の子供向け作品です。福島原発後の格差社会を舞台にしました。A小学生新聞の公募に出したものですが、審査員の目には留まらなかったみたいなので、ここで、少しずつ公開していきたいと思っています。
私は敬愛する宮崎駿大先生の「ナウシカ」には大きなショックを受けた一人ですが、それ以降、思想的にはあまり進歩が見られないのが、悲しい気がします。あまりにも安易なアニミズム、単なる自然崇拝主義者に陥ってしまっている気がしてなりません。
多いんだよね、安易なアニミズムが。とくに児童文学者には。古木に耳を寄せて、命の音が聞こえる、なんて書いて、よろこんでいる手合いが。どうして科学を批判する立場をとると、その手の安易なアニミズム主義者になるのでしょうか。どうして、テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼという基本で、物事を考えようとしないのでしょうか。「***の精霊」なんてシリーズを書いてたりしている人は、安易なアニミズム主義者の最たるものだと思うんだけど、個人的に。


ファミッコ伝説

第一章 スコールの中で(2)
 一度動き出すと、止まらなくなるのだ。
 納得できる答えを見つけるまで、頭の中をぐるぐる、ぐめぐると、その疑問がかってに駆け回ってしまうのだ。
(いま、降っている雨は、ヒートアイランド現象っていうんだよ。なぜ、起きるのか。それは都会がコンクリートとアスファルトでできていて、それが夏の日差しで熱くなり、周りの空気をどんどんと熱くする。その空気が入道雲を作り出して、どっと急な大雨を降らせているのだ)
 そう心の中で、模範解答を書いてみた。
 でも、いくら、科学的には理解できても、どことなく納得できない。
 テレビでは、このような雨をゲリラ豪雨と呼んでいる。
 この数年、東京だけではなく、日本のあちこちで起きている。
 ゲリラ豪雨によって、川岸でキャンプしていた家族が押し流されたり、マンホールの中で作業していた人が突然の水に流されたりしている。
 それだけでなく、変電所に落ちた落雷で大規模停電がおきたり、地下鉄に流れ込んだ雨水で交通がマヒしたり、といろいろなことが起きているのだ。
 今年はとくにひどい暑さで、豪雨があればあるで被害が出て、なければないで、40度を超える暑さのせいでたくさんの人が熱中症で死んでいる。
 竜巻なんかも起きている。
(だれがなんといおうと、異常気象だ)
 拓也はそう思うのだが、天気予報では、異常気象の「異」の字にも触れない。
 最近10年の平均値より高いか低いかだけで、異常か異常でないかを決めているので、異常が異常でないということになっているらしい。
そこらへんも、変だと思う。
 とにかく、日本中がどこかが変だ。そう、「どこかが変だ」というのがピッタリ。

 隣で携帯電話をしていた人が電話を切ったので、拓也は、
「すみません。ケータイ貸してもらえないでしょうか。うちへ、電話をかけたいのです」
と、たのんでみた。
「おお。いいよ」
 男の人は、気軽に貸してくれた。拓也の父と同じくらいの年の人だ。
 携帯電話を借りた拓也は、
「いま、スーパーの先のビルのところで、雨宿りしている。迎えにこなくていいよ、あぶないから。公園でサッカーしていたら、空が真っ黒になったので、いそいで帰ろうと思ったんだけど、間に合わなかったんだ。
 うん。小雨になったら、帰るからね。ケータイ、親切な男の人から借りたの。じゃあ、長電話すると悪いから切るね」
と、用件を手短に母に伝えた。
 公園にいたというのは事実だけど、サッカーをしていたというのはウソだった。
 ついさっきまで、拓也は、この先の大きな公園の、藤棚の下で友だちとカードゲームをして遊んでいたのだ。
 周りには木立があって、風通しがいい。震災前なら、クーラーのきいた部屋でプレイできたというのに。
 拓也たち都会の子は、ゲリラ豪雨を何度も味わっている。だから、雲行きが怪しくなったら、遊びはやめることになっていた。
 きょうも、とつぜん、空に黒い雲がでてきたので、みんな、あわてて解散し、あわてて自転車で家へ向かったのだ。
 ぽつり、ぽつりと降り出したと思ったら、本格的にザーッと降り出すまでに10秒とかからなかった。
 拓也は、電話を切ると、ていねいに、
「ありがとうございました」
といって、携帯電話を返した。
「君はえらいな」
「えっ、なにがですか?」
「親に心配をかけまいとして、家へ電話をかけるなんて、なかなかできることじゃないよ。」
 男の人が拓也に語りかけてきた。
「ううん、そんなんじゃないんです。うちのママ、とんでもない心配性だから、安心させてやらないと、なにをしでかすか、わかんないんです。かみなりがあぶないというのに、外に出かけかねないんだもの、ホントに」
「君、やさしいんだね」
 ほめられて、悪い気はしないけど、ちょっと照れくさい。
 また、かみなりが落ちた。少し遠のいたようだった。
「ぼくたち大人がやってきたことのツケ、みんな、君たちの世代に背負わせてしまうみたいで、申しわけなく思っているんだ」
 男の人は、たたきつけるような雨を見ながら、とつぜん、こんなことを語りだした。
「この雨だって、地球を温暖化させた大人のせいだし、放射能も、危ないとわかっていたのに、便利で安いからと原発を使いつづけた大人のせいだし……、むずかしい宿題ばかりを君たちに残してしまったみたいだね。
 大人はみんな、君たち子どもにあやまるべきなんじゃないかな。
 最近、ぼくはそう思うようになったんだ」
 自分のような子供に、こんなことをいう人とは、拓也ははじめて出会った。だいたいの大人は、教訓ばかりだというのに。
「気にしないでください」
 拓也がそういうと、
「はははは。君って、大人じみてるね」
 男の人が愉快そうに笑った。
「よく、いわれます。ママなんか、かわいくないというときもあります」
「いいな、男の子は。じつは、うちにも子供が二人いて、両方とも女の子だから、父親なんて、給料運搬屋さんくらいにしか思ってない。でも、娘たちのことを思うから、いやな仕事もつづけられているんだ。」
「大人って、たいへんですね」
「ああ。なかなかたいへんだよ。ちょっと、タバコ吸ってもいいかな」
「いまどき、めずらしいですね」
 男の人は、そういうと、背広のポケットからタバコを取り出すと、ライターで火をつけた。
「まだタバコを吸っているの、このあたりではあなたくらいのものですよ、と女房からもイヤミをいわれているんだ。こうなりゃ、人類最後の喫煙者と呼ばれるまで、吸うつもりだよ」
「おじさん、腐海の森、知ってますか?」 
 とつぜん、拓也は、自分の心に芽生えた疑問をぶつけてみたくなったのだ。
「おっ、ナウシカだな。おじさんも、若い頃、何度も見たよ」
 拓也は、豪雨と落雷を見ながら、ナウシカの話をして、やり過ごすことにした。
 ナウシカというのは、宮崎駿という監督が作った「風の谷のナウシカ」のことで、父の世代の人がほとんど見ている有名なアニメ映画だ。
 拓也の父も、リアルタイムで「ナウシカ」を見た口で、宮崎作品の中で一番好きみたいで、DVDで繰り返し見ていた。

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by spanky2011th | 2012-04-02 23:37 | 長編児童文学 ファミッ子伝説