第一章 スコールの中で(3)

約210枚の子供向け作品です。福島原発後の格差社会を舞台にしました。A小学生新聞の公募に出したものですが、審査員の目には留まらなかったみたいなので、ここで、少しずつ公開していきたいと思っています。
 自分が小学生のとき、熱心に原爆の恐ろしさを語る先生がいた。昭和四十年代の事だ。みんなの手で、原爆をなくさなくてはならない、というようなことを語るのだ。正論だと思った。でも、原爆の怖さばかりをいろいろと聞かされて、その印象が強すぎたのだろう。校庭で遊んでいても、とつぜん、空から原爆が落ちてきて、ぼく達をやきはらってしまう、という妄想にとらわれてしまい、苦しんだ事がある。
 正しい認識を持つ事は大事だ。でも、それよりも大切なのは、こうすれば抜け出せるというビジョンを語る事ではないのだろうか。キング牧師が行ったバスのボイコット闘争。そこには、バスをボイコットすることで良心を目覚めさすという目標があり、アイ・ハブ・ア・ドリームというビジョンがあった。
 自分にはまだビジョンと呼べるものがないが、それをいま模索している。


ファミッコ伝説

第一章 スコールの中で(3)

 いつしか拓也も、ほとんどのシーンを覚えてしまっていた。
「ナウシカでは、腐海の森が汚れた大地をきれいにしてくれている、とあったけど、あんなこと、あるのでしょうか? 大地をきれいにするのは、やはり、人間の科学だと、ぼくは思うのです」
「ふーん。君は、科学の進歩を信じているみたいだね」
「ええ。それに、あの汚れた大地は、巨神兵を使って世界を焼き払ったからできたと思っていたけど、どうもちがうような気がしてきたんです。もちろん、巨神兵がやったんだけど」
「というと?」
「うまくいえないんだけど、もっと、バカバカしい原因じゃないかな、と思うんです」
「君は面白いこというね。人間の愚かさというやつかな」
 おじさんは、質問上手だった。拓也もつい、のせられてしゃべってしまう。
「この雨、どう考えたって、環境破壊のせいでしょ? 
 学校の授業で、環境破壊とか、人口爆発とか、習いました。だから自然を大切にして、エコな生活をしましょう、って教わりました。
 それって、正しい答えだと思います。でも、実際は、どんどん悪くなる一方です。
 正しい答えは出ているのに、みんな、それから目をそらしている。そんな感じなんです」
 拓也は、そういいながら、同級生のある女の子の顔を思い浮かべていた。 
 携帯型のテレビゲームは、学校持ち込み禁止になっている。
 それなのに、持ってきた生徒がいたので、それがホームルームの時間に、やり玉になったのだ。
 持ってきたのは、地味で目立たない男の子だった。
 その女の子は、
「決まりなのだからどんな理由があっても持ってきてはいけない。ゲームはゲーム脳になるからいけない」
とか、きれいごとばかりいって、ゲーム機を持ってきた男の子を責めつづけたのだ。
 拓也たち男子はみな、彼が、なぜ、学校へそれを持ってきたのか、知っていた。
 放課後、彼は、入院中で退屈している弟へ持っていこうとしていた。だから、だれも気にもしなかったし、悪いことだとは思わなかったのだ。
 それどころか、彼、弟思いだな、と思ったくらいだった。
 拓也は、
(あれじゃかわいそうだよな)
と思いながら、時間が過ぎるのをだまって待ちつづけたのだ。
 そうなのだ。彼をかばうべきだったのに、それから、目をそらしてしまったのだ。
 きっと、ナウシカの時代の人々も、巨神兵は使うべきではない、と思いながら、だれもなにもいわなかったにちがいない。
「ふーん。正しい答えは出ているのに、目をそらしているか。いえてるかもしれないね。
 いわれてみれば、ナウシカも、もののけ姫も、みんな、自然の再生の力を神様みたいにあがめているけど、あれじゃ、アニミズムそのもので、人類は先祖帰りすべきだといっている感じだよな」
「アニミズムって、なんですか?」 
「木や草や鳥や虫などのひとつひとつに、神様が宿っているという考え方さ。
自分たちの利益のために自然を壊すのが悪だからといって、人間の知恵を否定すべきではないと君はいうのだね。
 ぼくもそう思うよ。
 霊とか超能力があると信じているがために、ずいぶんとひどい事件が起きてるからね。
おじさんは、そういう話にはちょっとくわしいんだ。仕事がらだけどね」
 拓也はそんなことまでは考えていなかった。ただ、正しいことは実行しにくい。ただ、それだけだった。
 そんなことを話しているうちに、雨が上がってしまった。
 その上がり方も、変だった。
 雨降り部分と、雨なし部分との境目があるような感じで、こっちから向こうへと、走り去るような感じで、雨が上がっていったのだ。
 雨がやむと、いきなり新宿副都心の高層ビルが北側に見えだした。
 そして、雲に切れ目が出てきて、そこから太陽の光がいく筋も降り注いでくる。
「あの、雲の間から落ちてくる光を、なんというか、君、知ってる?」
 おじさんの質問に、拓也は正直に、
「知らない」
と答えた。
「天使の階段というんだよ」
「素敵な呼び方ですね」
「ぼくもそう思う。君と話せて、よかったよ。じゃあ」
 男の人はそういうと、携帯電話をかけながら、急ぎ足で去っていった。
 雨でびっしょりぬれている自転車のサドル部分の水滴を手で拭うと、拓也はズボンがぬれるのも気にかけず、ペダルをふんだ。
 急いで、家へ向かったのだ。


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by spanky2011th | 2012-04-06 18:39 | 長編児童文学 ファミッ子伝説